詩で食っているただ一人の詩人

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「詩人なんて呼ばれて」語り手・詩 谷川俊太郎、聞き手・文 尾崎真理子 新潮社 2100円+税

 現代日本に自称・他称「詩人」と呼ばれる人は数あれど、「詩を書いて食っている詩人」といえば、谷川俊太郎ただ一人。24歳の谷川は「1956年の日本で、詩を書いて食っている詩人はいない。しかし、だからといって、それが詩を孤立させていい理由にはならない。我々は詩が売れるように努力すべきである」と宣言した。それから60年余、状況はほとんど変わっていないことに驚くとともに、谷川俊太郎という詩人がいかに屹立した存在であったか、あるかを思い知らされる。

 本書は、読売新聞文化部記者(現・編集委員)として多くの作家を取材し、「ひみつの王国 評伝 石井桃子」なども著している尾崎真理子が、3年越しのロングインタビューを経て、詩人・谷川俊太郎の全貌に迫ったもの。哲学者の父・徹三との「遠く、冷たい」関係、3人の妻たちとの出会いと別れ、認知症になった母のこと、畏友・大岡信の思い出など、尾崎はかなりプライベートな部分にも踏み込んで谷川から話を引き出している。

 特筆すべきは、そのすべてが具体的な詩作品に即して問いかけられていること。逆にいえば、「人生は日々のものである。そして人生が日々のものである限り、詩もまた、日々のものである」という谷川の言葉通り、谷川にとってはあらゆることが詩となりおおせていることを示してもいる。

 本書には別丁として厳選された20編のほか、谷川の詩が数多く引用されている。また、同時期に刊行された2冊の詩集、「定義」と「夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった」を比較しながら、後者と村上春樹との共鳴を示唆するなど、谷川作品への良きチチェローネ(ガイド)ともなっている。

 それら詩業を俯瞰してみると、自らを〈宇宙内存在〉と規定する谷川の独自性が際立つ。「二十億光年の孤独」というデビュー作のタイトルの、なんと象徴的なことか!
<狸>

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