著者のコラム一覧
笠井潔

1948年、東京生まれ。79年、デビュー作「バイバイ、エンジェル」で角川小説賞受賞。以後、ミステリー、思想評論、探偵小説論など幅広い分野で活躍。主な著書に、「サマー・アポカリプス」他の矢吹駆シリーズ、伝奇ロマン「ヴァンパイヤー戦争」シリーズなど。

「コンビニ外国人」芹澤健介著/新潮社760円+税

公開日: 更新日:

 コンビニや居酒屋で外国人店員を見ない日はない。厚労省の集計では、昨年10月の時点で外国人労働者は128万人、この10年で2・6倍に増加している。知識労働者は別として、日本に外国人の単純労働者は1人もいないはずだが、いったいどういうことなのだろう。本書は、こうした素朴な疑問に答えてくれる。

 コンビニのようなサービス業の従事者は目に触れやすいが、製造業で働いている外国人のほうが実際は多い。また外国人労働者の大半は留学生と技能実習生で、いずれも厳しい制約のもと、日本での労働が限定的に許されているにすぎない。こうした現状は、「移民政策はとらない」という政府の公式見解と、少子高齢化による深刻な人手不足との根本的な齟齬を、小手先でつじつまあわせしてきた結果といえる。

 本書では、若い外国人労働者たちの来日の動機、仕事や日々の暮らしなどがインタビューと取材によって具体的に語られている。給料の不払いなどが横行する技能実習生の劣悪な労働環境、悪質ブローカーへの来日資金返済のためアルバイトに明け暮れざるをえない留学生の実態なども。

 はじめは「外国人労働者を受け入れるかどうか」という常識的な立場だったが、取材を進める過程で発想が根本的に変わったと著者は書いている。なし崩し的に外国人労働者を増やしてきた事実、その存在なしには回らない日本社会の現状がいや応なく見えてきたからだ。

 賃金水準、法的保護、将来性などを韓国や台湾やシンガポールと比較検討する途上国の若者に、日本行きの魅力は低下しつつある。産業界の危機感に押されて、政府も移民政策に舵を切りはじめたようだ(6月5日の「骨太の方針」原案など)。移民対策がその場しのぎの泥縄で終わるなら、外国人労働者や移民志願者から見放された少子高齢化日本は、絶望的な人手不足による空洞化と自壊の運命を避けられないと著者は語る。

【連載】貧困と右傾化の現場から

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動