「ふたたびの虹」柴田よしき著

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 小料理屋や喫茶店のカウンターの中に入ったことがある人なら分かると思うが、カウンターの中からは客一人一人の様子が意外なほどよく見える。人間観察の格好の実践場でもあり、長年その経験を積めば、名探偵顔負けの鋭い洞察力を発揮する。本書の小料理屋の女将もそんなひとりだ。

【あらすじ】東京・丸の内のオフィス街の片隅にある「ばんざい屋」は、京都の庶民のおかず「おばんざい」を中心にした小料理屋。女将の作るおばんざいに引かれて、夜な夜な常連客が訪れる。

 ある日、女将の目に「会社員他殺体で発見」という新聞の見出しが飛び込んできた。詳しく読むと、被害者の塚本は店の常連のひとりで、殺害されたのは、待ち合わせがあると言って、いつもより早めに店を出て行った日だった。

 聞き込みに来た刑事から塚本が店に来る前にコンビニでたばこを買っていたと聞いて、女将は訝る。たしか塚本は、店にいたときにたばこを切らしたと言っていたはずだ。女将は独自の推理を働かせてある可能性を示唆する。あるいは、小説家の娘が毒を飲んだ事件で、娘が手にしていたアンティークの指輪から、どのように娘が毒を口にしたのかの謎を見事解いてみせる。

 しかし、最大の謎は女将自身だった。常連客たちは、吉永という姓と京都の出身であること以外、女将のプライベートは全く知らず、女将も口にすることはなかった。

 ところが、女将が心を寄せている古道具屋の清水と付き合うようになってから、彼女の過去が徐々に明らかに……。

【読みどころ】恋愛小説とミステリーとが巧みに結びついた作品だが、カボチャの煮物、桜飯といったおいしそうなおばんざいの数々も同時に味わえるぜいたくな逸品。 <石>

(祥伝社 638円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

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