著者のコラム一覧
佐川光晴

◇さがわ・みつはる 1965年、東京都生まれ。北海道大学法学部卒業。2000年「生活の設計」で第32回新潮新人賞受賞。02年「縮んだ愛」で第24回野間文芸新人賞、11年「おれのおばさん」で第26回坪田譲治文学賞受賞。著書に「牛を屠る」「日の出」など多数。「大きくなる日」は近年の中学入試頻出作品として知られる。

第1話 じゃりン子チエは神 <2>

公開日: 更新日:

「えっ、なに?」

「『じゃりン子チエ』や。お姉ちゃん、知らへんの。おとうはんが持ってた昔の漫画で、メチャメチャ面白いんやで。ほな、どういう漫画か、今から教えたる」

 美岬は新体操の日本代表チーム・フェアリージャパンの一員としてロシアで合宿をしていた。家族割のおかげで、国際電話でも料金はそれほどかからないのがありがたかった。

 ともかく、そんなしだいで、千春の大阪弁はじゃりン子チエこと竹本チエゆずりだった。生粋の大阪人が聞いたら、イントネーションがおかしいと感じるかもしれないが、三男はなかなかうまいと思っていた。もっとも、大阪弁は家族の前だけで、中学校ではふつうに話しているらしい。

 千春が突然口をきかなくなったのは去年の12月だった。9歳違いの姉・美岬がやたらな美人であることがクラスメイトにバレてしまい、姉妹なのにまるで似ていないとからかわれたのだ。

 美岬は11月下旬に行われた全日本新体操選手権で好成績を収めて、「リオ五輪での活躍が期待される美人アスリート」として、写真週刊誌に取り上げられたのである。掲載号が発売される10日前に出版社から連絡があり、美岬はかわいそうなほど困惑していた。しかし演技中の写真を使用するというのでは抗議のしようもない。日本新体操連盟と所属する大学に報告すると、むしろ宣伝になると歓迎しているようだった。

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