「『自己決定権』という罠」小松美彦著 聞き手・今野哲男
04年4月に起こった「イラク邦人人質事件」では「自己責任論」が持ち出された。勝手に危険な場所へ行ったのだから、その責任を国家に押しつけず自分で取れと。同じ頃、脳死者からの臓器移植が合法化され、「安楽死・尊厳死」の問題も論議されていた。その際にキーとなるのが「自己決定権」だ。この言葉を名分として安易な脳死判定や安楽死を容認・推進する傾向を批判したのが04年に刊行された「自己決定権は幻想である」で、本書はその増補改訂版。
旧著で著者の提起した問題は現在さらに深刻な様相を呈している。その例が今回増補された「相模原障害者殺傷事件」だ。「意思疎通を取れない人間を安楽死させる」のは正義だという論理のもと45人の知的障害者が殺傷されたこの事件は、社会に大きなショックを与えた。その底にはナチスの優生思想とつながる考えがあり、それが「自己決定権」による「尊厳死」と結びついて起きたものだと著者は分析する。
旧著から現在までの「自己決定権」を巡る状況も収録。
(言視舎 2400円+税)