地方の魅力発掘本
「福岡はすごい」牧野洋著
「地方創生」は安倍政権発足当時の目玉政策だったはずだが、今やすっかりメッキが剥がれ落ち、地方は相変わらずほったらかしのまま。それでも、活路を見いだそうと各自治体は独自の模索を続けている。そんな地方にスポットを当てた新書5冊を紹介する。
福岡は、アメリカの成長エンジンになっている西海岸に相当すると、双方で暮らした経験がある著者は言う。福岡のポテンシャルを引き出せば、地方発で日本全体を変えるきっかけになるとも。
福岡市の人口増加率は政令指定都市で断トツ。通勤・通学時間は国内の大都市圏では最も短く、食料の物価は最も安い。その「住みやすさ」こそがカギだという。ネット時代の到来で、クリエーティブな人々は好きな場所で働けるようになり、住む場所を選ぶ上で「リバブル(住みやすい)」が重視されるからだ。孫正義氏ら多くの起業家を生んだ福岡は、開業率でも15年度まで3年連続日本一だった。福岡で起きている再生医療や有機ELなどのイノベーションを取材するなど、さまざまな視点から福岡の魅力と可能性を紹介する。
(イースト・プレス 861円+税)
「犬猿県」矢野新一著
激しいライバル争いを続ける隣県10組の因縁の関係を分析、解説した面白地方本。
よく知られている犬猿の仲は静岡県と山梨県。その対立の根本にあるのが「富士山はどちらの県のものか」という境界線問題だ。山頂と東側約5キロの斜面の境界が定まっていないのだ。
富士山の8合目以上は江戸時代からの変遷を経て、富士山を御神体とする浅間神社の私有地となっている。だが、境界が定まらないため、土地登記もできない状態だという。
他にも、ライバル意識率調査で86%という高率でお互いをライバル視する鳥取県と島根県や、四国ナンバーワンを巡り対立する香川県と愛媛県、「全国知名度最底辺県」を争う栃木県と茨城県など、それぞれの言い分や県民性、名物などを紹介しながら、両者の争いを高みの見物。
(ワニブックス 830円+税)
「京都、パリ」鹿島茂、井上章一著
フランス文学者とベストセラー「京都ぎらい」の著者による対談集。お互いがよく知るパリと京都をテーマに語り合う。
京都の店は、創業が寛永とか元禄とか「とにかく歴史の由緒を誇りたがる」(井上)。同じ古都でも、パリはそこまででもない。なぜなら、金ができるとブルジョアは、息子に官職を買い与え「法服貴族」にする。そして息子が貴族になったら「親は出自を隠すために廃業する。これの繰り返しだった」(鹿島)。
ゆえに創業年を誇りにするような伝統は生まれなかったという。そんな人々の気質に始まり、それぞれの都市の成り立ち、お茶屋とメゾン・クローズ(娼館)の共通点、そして双方が観光都市を目指した意外な理由など。
歴史のウンチクから性風俗まで硬軟の話題に知的好奇心をくすぐられる。
(プレジデント社 1200円+税)
「長生きできる町」近藤克則著
長寿大国といわれる日本だが、日常生活に制限のない「健康寿命」は、地域によって差があり、2016年に1位だった山梨県と最下位の秋田県では2歳も違いがあった。同じ都道府県内でも市区町村間で健康格差が生じ、2010年、足立区では都の平均よりも健康寿命が2歳も短かったそうだ。
また、ある調査では、1年以内に転んだことのある人の割合が最も少ない地域と、多い地域では4倍以上の差があり、認知症の発症率も地域によって大きな差が出た。こうした地域による健康寿命の差が生じる理由のひとつは、スポーツやボランティア、趣味などを通じた社会参加の有無だという。その後、健康寿命を延ばした足立区の取り組みや、愛知県で行われた研究プロジェクトなどを紹介しながら、健康格差について解説したリポート。
(KADOKAWA 860円+税)
「地図と地形で楽しむ 大阪淀川歴史散歩」都市研究会編
大阪の成り立ちと深いつながりを持つ淀川沿いを歩きながら、その歴史と地形の謎を読み解いていくご当地ガイドブック。
大阪開発の祖は仁徳天皇で、暴れ川だった淀川に「茨田堤」と呼ばれる堤防を築いたのが最初だそうだ。日本最初の大規模治水事業は、日本初の大国家プロジェクトでもあった。京阪電車大和田駅近くの「堤根神社」は、茨田堤の鎮守として創建されたそうだ。
その他、湖水を旧淀川へ排出する場所の近くだったためといわれる難読地名「放出」の由来や、「大阪の食い倒れ」が元は、川に架ける橋の建造維持で財産を失う商人がいたことから「杭倒れ」だったという説、そして「鵜殿の葦原」が古くから淀川流域のランドマークとして扱われる訳など。
「水の都」大阪の知られざる歴史をひもとく。
(洋泉社 950円+税)