「哀愁 ガリットチュウ福島のモノマネ人生劇場」福島善成著

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 お笑いコンビ「ガリットチュウ」のボケ担当である著者のインスタグラムのフォロワーはなんと30万人超。その人気を集める、氏が演じる哀愁漂う一般人や芸能人のモノマネ写真を編んだアートブック。

 ただモノマネ写真が並ぶのではなく、冒頭には撮りおろしのフォトストーリーが展開。女子中学生・和田千鶴を主人公に、彼女の初恋と失恋を描くのだが、恋の相手であるクラスメートでサッカー部のエース・塚原健二郎や、娘の失恋を冷ややかに見つめる千鶴の父親まで、もちろん著者が1人3役をこなす。放課後、部活に励む彼を見つめたり、彼のバッグから縦笛を取り出し、そっと唇に近づけてみたりと、女子中学生の切ない思いを演じ切る。

 しかし、これだけで感心していてはいけない。ここから先、怒涛のモノマネ劇場が始まるのだ。

 まずは「福善東中第69期卒業アルバム」との設定で、和田千鶴が在籍する3年ED組17人全員に扮装。

 男女ともひとりとして同じような造形の人物はおらず、なおかつ、中学校のクラスメートに必ずいそうな人物ばかりで、その観察眼、造形力に驚く。

 卒業写真に欠かせない校長をはじめ各学科の教員や部活の集合写真、修学旅行のスナップ写真まですべてひとりで演じ、1クラス分の卒業アルバムを作り上げてしまう。

 さらに、生徒たちそれぞれの10~30年後の姿や、そのきょうだいや未来のパートナーなどの周辺人物まで登場。例えば、千鶴の片思いの相手だった健二郎の10年後は、卒業アルバムの将来の夢の欄に「家を継いで漁師になる」と記した通り、漁師となり、美人の嫁さんをもらって3人の子供の父親になっているという具合だ。さらにパチンコに入れ込む健二郎の姉の写真まで添えられる。

 後半は、インスタグラムで人気の哀愁があふれ出している人々のモノマネ写真傑作選がずらり。

 金髪の頭にサングラスをアクセサリー代わりにのせ、家族を大事にしているオーラを出す「モデルのインスタグラムにちょくちょく出てくる実のお母さん」や、学生服に不釣り合いなキャップをかぶってリュックを背負い、自信なさげな目をした「帽子だけでも個性を出そうと必死な修学旅行生」、変な宗教に入ったらしく「おじいちゃんに借金しまくって勘当された親戚のおばさん」など、どこかで見たことがあるような人ばかりで、一枚の写真からそれぞれの人生のドラマまでが立ち上がってくる。

 もちろん個性の強い芸能人たちのモノマネも秀逸なのだが、哀愁モノマネの真骨頂は、こうした誰もが人生の中ですれ違ったり、関わったりするごく普通でありながら、よく観察すると個性豊かな人々なのではなかろうか。

「人生とは“哀愁”。その哀しみを笑ったほうがいい。だから、あなたの今の哀しみも。時間が経てばきっと笑えるはず」と著者は言う。

 写真の登場人物たちが抱える哀愁を笑いながらも、ちょっと共感してしまう面白くもあり切ない写真集。 (ヨシモトブックス 1200円+税)

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