最新 政治を知る本特集
「何ものにも縛られないための政治学」栗原康著
森友・加計問題や沖縄問題、そして数に頼った強引な政治運営など、目に余る政治の劣化が一段と進んだと感じられる年だった。世界情勢も激動で展望が見えない状態が続いている。そこで年の締めくくりに、政治について考えてみるのはいかがだろう。お薦めの政治本5冊を紹介する。
ラップ調の文体で猿のオナニーの話題から始まる衝撃の政治本。過去の革命やアナキストの思想を読み解き、カネや人間関係、社会、国家に縛られない、「支配されない状態」を目指す=アナキズムへと読者をいざなう。
国家なんていらない、税金なんて払いたくない、安倍晋三がいないと生きていけない人なんていない。でも、国家がなければ道路も整備されず困ると、「権力はいまやインフラのうちに存在する」と説き、現代は生きるということがインフラを造った国家や企業に金を支払うことと同義になってしまっていると指摘する。
たまにインフラ権力が壊されるときがある。それが革命状態だが、すぐに代わりの権力が立ち上がり、新たな支配と収奪が始まる。ゆえに、あらゆる権力からの脱構成こそが真の革命だと読者を煽る。
(KADOKAWA 1800円+税)
「リベラルVS.力の政治」ニーアル・ファーガソンファリード・ザカリア著、酒井泰介訳
自国第一主義を掲げるトランプの大統領当選や英国のEU離脱、さらにロシアのクリミア半島併合や中国の南シナ海進出など、戦後につくり上げられた「リベラルな国際秩序」の終焉を思わせる事態が相次いでいる。本書は、歴史学者のファーガソン氏とアメリカを代表するジャーナリストのザカリア氏が、「リベラルな国際秩序は終わったのか?」をテーマに激論を交わした討論番組の書籍化。
ファーガソン氏は、リベラルな国際体制はすでに過去のもの、賞味期限切れだという。なぜなら、その主な受益者が一党独裁国家の中国だからだ。対するザカリア氏は、高度経済成長はリベラルな国際体制の最大の果実で、新興国や途上国がリベラル体制への加入を望んでいると、その継続を主張。2人の討論から、国際政治の潮流が浮かび上がる。
(東洋経済新報社 1300円+税)
「あなたに伝えたい政治の話」三浦瑠麗著
何事もなければ安倍政権はあと3年続き、憲政史上歴代最長の政権となる。本書は、国際政治学者の著者が、直近の3年間に安倍政権が取り組んできた諸課題を検証しながら、日本の政治の「今」を論じた政治評論集。
安倍首相が長期政権を実現させているのは、攻守、積極性と消極性のバランスを巧みにコントロールして選挙に勝ち続けるサイクルを維持しているからだという。政権の看板政策であるアベノミクスは、本来は金融政策と構造改革の両輪だったはずが、競争を促進して既得権益層との対立を生む構造改革案件は先送りになっていると指摘。半面、民主主義による合意形成の必要性が低い外交で存在感を発揮してきたと分析する。
憲法改正の是非や、世間を騒がせた加計問題などを俎上に、安倍政権の本質に迫る。
(文藝春秋 800円+税)
「『表現の自由』の明日へ」志田陽子著
「表現の自由とルール」の入門書。
憲法21条で定められた「表現の自由」の基本的意味は、「国家(公権力)が、人間同士の自発的行為であるさまざまな表現を妨害しない」ということ。
世界最初の戦争画家として再評価されるゴヤや、アメリカの独立や南北戦争の際に新聞に掲載された匿名の投書など、「表現者たち」の足跡を手掛かりに、「表現の自由」がいかに大切であるかを説く。
表現の自由は「個人の人格と生存を支える」ものであるとともに「社会を支える」ものであるが、デリケートな弱いものでもあるため「取り扱い注意」が必要である。
表現の自由を巡るさまざまな裁判や事件を紹介しながら、「人格権」と呼ばれる権利との関係や、民主主義と表現の自由、そして知る権利との関係などを解説する。
(大月書店 1700円+税)
「未来をはじめる『人と一緒にいること』の政治学」宇野重規著
中高生を相手に語られた政治学講義の書籍化。
政治を身近に感じることができないという生徒らに対し、著者は「政治とは本来、互いに異なる人たちが共に暮らしていくために発展してきたもの」と説く。スマホなどのツールにより、世界がつながり、平等意識が高まる一方で、他者とのさまざまな違いを日々、目の当たりにする。
そうした時代背景を念頭に、市場経済を重視する新自由主義やグローバリズムを進めてきた英国のEU離脱や、米国でトランプ大統領が登場したことを例に、国境を越えた市場経済の活動と、ひとつの国家を前提とした民主主義とが食い違いを見せた結果だと解説する。さらに働くことと政治の関係、民主主義と多数決についてなど、時事を盛り込みながら政治学の本質を解き明かした大人にもお薦めの書。
(東京大学出版会 1600円+税)