「ピアノ・レッスン」アリス・マンロー著 小竹由美子訳

公開日: 更新日:

「短編の女王」と称され、カナダ初のノーベル文学賞を受賞したアリス・マンロー。本書はその最初の短編集。

 刊行の1968年当時、マンローは4人の子供を抱え家事に忙殺されながらも短編を執筆し続け、ようやくその評価が高まり短編集の刊行に至ったのだ。しかし、夫との溝も深まった時期でもあり、その5年後、離婚している。本書には、そうしたマンローの最初の結婚生活と、彼女が幼い頃に暮らしたオンタリオ州の田舎町での体験が色濃く投影されている。

 冒頭の「ウォーカーブラザーズ・カウボーイ」は、ギンギツネの飼育を生業としていたがうまくいかずに訪問販売員に転身した父親の姿を娘の目から捉えたもの。穏やかで優しい父と口うるさくて細かい母という組み合わせはマンローの両親の姿であり、それぞれの屈託を見据える少女には既に作家の目が芽生えている。

 その他、女の子、女性であることを自ら受け入れていく「男の子と女の子」と「乗せてくれてありがとう」、地域の嫌われ者を追い出そうとする動きに静かに抗議する主婦を描いた「輝く家々」など、処女作にして成熟した技巧を示すマンローの凄みが感じられる。

(新潮社 2200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フワちゃんは活動休止、男性の体臭批判の女子アナは契約解除…失言続きの和田アキ子はいつまで許される?

  2. 2

    「アッコにおまかせ!」存続危機 都知事選ミスリードで大炎上…和田アキ子には“75歳の壁”が

  3. 3

    中丸雄一「まじっすか不倫」で謹慎!なぜ芸能人は“アパホテル”が好きなのか…密会で利用する4つの理由

  4. 4

    中丸雄一に"共演者キラー"の横顔も…「シューイチ」で妻の笹崎里菜アナも有名女優もゲット

  5. 5

    やす子「暴言トラブル」火消しで“救いの手”も…フワちゃんの言い訳がましい謝罪が“火に油”

  1. 6

    選手村は乱交の温床、衝撃の体験談…今大会コンドーム配布予定数は男性用20万個、女性用2万個!

  2. 7

    中丸雄一「よにのちゃんねる脱退」を求めるファンの声…名物・菊池風磨の“中丸いじり”はもう笑えない

  3. 8

    川合俊一らと男子バレー“御三家”だった井上謙さんは「発達障害の息子のおかげで学んだ」

  4. 9

    自民重鎮の元秘書が「JK性加害」の衝撃!衆院青森3区から出馬表明も、酒乱トラブル続出の過去

  5. 10

    中日・根尾昂は責められない。定石を度外視、一貫性も覚悟もない指揮官の大問題会員限定記事