「方丈の孤月」梓澤要著
鴨長明は都を出て、法界寺の三重の塔の近くに方丈の庵を建てて住むことにした。この地で念仏三昧の暮らしをするつもりなのに、山はたそがれ時には魑魅魍魎がうごめく魔境となり、平静を装う覇気さえ出ない。
長明は下鴨神社の名門神官の家に生まれた。兄は侍女が産んだ庶子だったので、自分が南大路家を継ぐつもりだったのに、父は、本家である菊宮家の修子の婿になって本家を継げと言う。だが、修子の寝所に迎え入れられたとき浮かんだのは、かつて糺の森で出会った、高倉帝の寵姫、小督の局に仕える凜子の面影だった。
神職として出世を願ったが挫折し、大飢饉や大地震などを体験して出家、山奥の庵で世の無常を見つめた男の生涯を描く。
(新潮社 1700円+税)