著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「『馬』が動かした日本史」蒲池明弘著

公開日: 更新日:

 日本は「草原の国」であったという指摘が新鮮だ。本書の論考をしばらく追う。

 それは火山の国であったからだ。火山のまわりに草原ができやすいのは、巨大な噴火によって火砕流、溶岩がちらばり、その上に土が堆積しても他の場所に比べて土壌の厚さが不足しているので、樹木が根を張り、十分な水分、栄養分を得ることは難しい。その結果、生まれるのが「黒ボク土」で(厳密には火山灰に由来しない黒ボク土もあるようだが)、農地には適さない草原となる。こうした日本列島の草原的環境にもっとも適した野生動物のひとつが鹿であり、5世紀ごろ日本に持ち込まれた馬であった、というのである。

 その黒ボク土の草原地帯(日本列島の30%)のうち、牧の条件に適した場所は放牧地となり、馬産地が形成されたというのだが、この先の展開がもっと刺激的だ。

 関東に武家政権を築いた源頼朝、徳川家康。平安時代に関東の独立を目指した平将門、東北で黄金文化を開花させた奥州藤原氏、甲斐の武田信玄、すべて黒ボク地帯を軍事的な地盤にしていた、というから興味深い。ちなみに、島津氏が出た九州南部も、平清盛が出た伊勢国も、黒ボク地帯だ。日本史で活躍した多くの武将が黒ボク地帯から生まれているのだ。つまり馬は軍事的財産であり、それを手に入れることのできた武将が活躍したということだ。

 広大な草原が広がっていて、そこを馬たちが疾駆する。そんな光景が浮かんでくる。とっても刺激的な論考だ。

(文藝春秋 900円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    カブス鈴木誠也が電撃移籍秒読みか…《条件付きで了承するのでは》と関係者

  2. 2

    元横綱白鵬「相撲協会退職報道」で露呈したスカスカの人望…現状は《同じ一門からもかばう声なし》

  3. 3

    「白鵬米」プロデュースめぐる告発文書を入手!暴行に土下座強要、金銭まで要求の一部始終

  4. 4

    薬物疑惑浮上の広末涼子は“過剰摂取”だったのか…危なっかしい言動と錯乱状態のトリガー

  5. 5

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  1. 6

    広末涼子“不倫ラブレター”の「きもちくしてくれて」がヤリ玉に…《一応早稲田だよな?》

  2. 7

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  3. 8

    カブス鈴木誠也「夏の強さ」を育んだ『巨人の星』さながら実父の仰天スパルタ野球教育

  4. 9

    松田聖子は雑誌記事数32年間1位…誰にも負けない話題性と、揺るがぬトップの理由

  5. 10

    中居正広氏《ジャニーと似てる》白髪姿で再注目!50代が20代に性加害で結婚匂わせのおぞましさ