著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ワン・モア・ヌーク」藤井太洋著

公開日: 更新日:

 新国立競技場にどうやって原子爆弾を持ち込むのか――。すでに原爆テロを予告しているのだ。都内は厳重な警戒態勢下にある。その中をどうやって持ち込むか。

 ここが嘘くさいと全体のリアルが崩れ落ちる。作者はそこで周到な舞台をつくり上げる。新国立競技場が、国際コンペで一度は決まった設計をご破産にして別の設計者によってつくり直したものであることは、記憶に新しい。その最初の設計では、競技場の地下から下水道の千駄ケ谷幹線の支流が延びていたが、現在の競技場をつくったオールジャパンの設計チームは、追い出した外国人建築家の設計を下敷きにしながらも、著作権の侵害を恐れて図面を大幅に改ざん。そのときに下水道は消されたので、水道局の台帳にも記載されていない――というのである。その幻の支流をテロチームが見つけ出して、この計画がスタートする。リアルな物語をつくり上げるための、作者のこの工夫と計算に留意。

 原爆テロを実行するチームが一枚岩ではなく、さまざまな思惑が入り乱れていること。それを捜査する側にも齟齬があって、すみやかに進まないこと。このあたりは常套的な展開といってもいいが、人物造形が秀逸なので、どんどん引き込まれていく。

 物語は5日間と限定されている。爆発は3月11日午前零時。ワン・モア・ヌーク――もう一度、核を。テロチームのこのメッセージが読後も残り続ける。

(新潮社 900円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  4. 4

    永野芽郁は大河とラジオは先手を打つように辞退したが…今のところ「謹慎」の発表がない理由

  5. 5

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  1. 6

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  2. 7

    威圧的指導に選手反発、脱走者まで…新体操強化本部長パワハラ指導の根源はロシア依存

  3. 8

    ガーシー氏“暴露”…元アイドルらが王族らに買われる闇オーディション「サウジ案件」を業界人語る

  4. 9

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  5. 10

    内野聖陽が見せる父親の背中…15年ぶり主演ドラマ「PJ」は《パワハラ》《愛情》《ホームドラマ》の「ちゃんぽん」だ