「百年の色街飛田新地遊郭の面影をたどる」土井繁孝撮影/飛田新地料理組合協力

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 江戸時代の遊郭のたたずまいが今も残る大阪市西成区の「飛田新地」。大正7年に開業し、100年の歴史を刻む色街だが、場所柄か、今も街並みの撮影さえ禁止されており、文献や映像などその歩みを伝えるものはこれまでほとんど残されていない。

 本書は、「この地の記録を残し、伝えたい」という飛田新地料理組合の意向によって撮影された公式写真集。

 飛田新地が「飛田遊郭」と呼ばれていたころは、周囲は高さ4~5メートルの高い塀に囲まれ、娼妓の出入りを取り締まる門が設けられていた。その大門も今は門柱が残されているだけ。昭和に入って造られた東南北の門もすべて壊されたが、昨年、100周年事業で再建された北門には、飛田の守り神の「龍神」のうちの一神「白龍」の見事なレリーフと紋章が掲げられている。

 最盛期の昭和10(1935)年ごろ、貸座敷は234軒、2900人を超える娼妓がいたというが、現在は160軒の「料亭」が営業する。

 通りを歩くと、銭湯のような堂々とした破風造りやヒノキだろうか木材と石垣によって重厚感あふれる玄関や、ステンドグラスの円窓が大正ロマンを感じさせるアールデコ調の店舗など、さまざまなタイプの建物が密集するかのように並ぶ。

 夜ともなれば、その玄関が開き、店先には赤や紫のネオンがともり、その内側で緋毛氈の上に座った女性たちが、通りかかる客たちの気を引く。

 昼間の写真では気がつかなかったが、それぞれの店の軒先にはめられた欄間の模様が、内側からの光に透かされシルエットになって浮かび上がる。その精緻な意匠に往時の繁栄がしのばれる。

 そうした中で、ひときわ華やかで豪華な外観で目を引くのが国の登録有形文化財にも指定されている「鯛よし 百番」の建物だろう。

 赤く塗られた擬宝珠高欄の2階に連なる提灯によって闇夜に浮かび上がる建物に、2つの通りが交錯する建物の角に設けられた堂々とした玄関に圧倒される。

 外観だけではない。中庭には巨石が配され、1階の日光東照宮の陽明門を模した入り口がある部屋をはじめ、2階の10以上ある部屋もそれぞれ忠臣蔵でおなじみの大石内蔵助の名を冠した「由良の間」や洋風の「オランダの間」など、すべてコンセプトが異なり、絵画や装飾品で施された内装は絢爛豪華そのものだ。

 一方で、カメラは一般的な「料亭」の内部にも潜入。着物姿の女性に導かれるように、客目線でその内部を撮影した連続写真で、読者をつかの間の飛田新地疑似体験にいざなう。

 こうした料亭の取りまとめ役の料理組合の事務所が入る昭和12年建築の「飛田会館」の2階は、かつて娼妓の検査などに使われていたといい、彼女たち専用の階段まで備えられている。

 他にも、普段は飛田新地で姿を見かけることはない子供たちが、その日だけは主役になる「夏祭り」の様子など、街の点景もカメラに収める。

 日本のディープスポットを紙上で散策することができる貴重な写真集だ。

(光村推古書院 2400円+税)

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