「暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて」アーシュラ・K・ル=グウィン著 谷垣暁美訳
ウィーンのカフェの朝食には半熟卵がつきもので、「卵抜きで」などと言うと聞き返されるほどだ。著者は卵立てに、3分半のゆで時間で作った半熟卵を、大きい端を上にして立てる。ナイフで殻のてっぺんを取り、かろうじて形をなしている白身ととろとろの黄身をよく混ぜて、半熟卵専用の卵さじで食べる。これは「ながら仕事」へのささやかな批判である。聖書にも「何によらず手をつけたことは熱心にするがよい。いつかは行かなければならないあの陰府(よみ)には仕事も企ても、知恵も知識も、もうないのだ」と書かれている。陰府は朝食もない卵抜きの世界である。
「ゲド戦記シリーズ」作者のウイットに満ちたエッセー集。
(河出書房新社 2400円+税)