通勤のお供に 文庫で読むミステリー特集

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「偽装診療」仙川環著

 緊急事態宣言が解け、通勤が始まった人も多いだろう。だが、今はまだ電車がすいていることも多く、読書するにはうってつけ。最寄り駅に着くまでの間、ミステリー本で脳内トリップはいかが? 医者探偵や自衛官、江戸時代の料理屋の主人まで、仕事も時代も異なる世界にしばし浸ってみよう。



 新宿区にある淀橋診療所の雇われ院長の宇賀神は、自分が書いた紹介状が、外国人による健康保険不正に加担していると元院長の大窪に叱責される。確かに2カ月前、日本に来て間もない2人の外国人を同じ通訳の女性が立て続けに連れてきて、C型肝炎ウイルスの検査を頼んだことがあった。

 捜査に乗り出した宇賀神は、ようやく1人の外国人患者を通して通訳の女性リンに連絡が付いたが、約束の当日、「ボスから逃げている。行けなくなった」と電話が入る。宇賀神は偽装留学に手を貸している日本語学校を調べるうちに、以前に手術をした女性が再来日したものの、行方不明になっていることを知る。そんな中、不正に関わっていた日本人ブローカーが死体で見つかり、事件は日本の医療界が抱える闇へとつながっていく――。

 メディカルミステリー、医者探偵・宇賀神晃のシリーズ第2弾。

(講談社 640円+税)

「悪の血」草凪優著

 ネグレクトされて育った和翔は13歳で母親から離れ、以来、1人で生きてきた。今はシャブを売りさばきながら日々をしのいでいるが、そんな和翔が唯一心を寄せるのが、似た境遇で育った同い年の基生とその妹の潮音だ。和翔と基生は潮音には普通の生き方をさせたいと金を貯め、潮音を名門女子大に合格させ、ホッとしていた。ところが入学早々、潮音はK大のサークルの新歓コンパでレイプされてしまう。2人はサークルの主催者で首謀者の桑井を拉致し拷問するが、潮音のことだけは「知らない」と口を割らない。やがて和翔は潮音の態度から、話がでっち上げだったことに気づく。片棒を担いだのは何と基生で、彼には別の計画があったのだ。基生と潮音の目的が徐々に明らかになっていく……。

 底辺社会で“悪”に手を染めざるを得なかった若者たちを描いた著者渾身の犯罪小説。それぞれが選ぶ行く末が切ない。

(祥伝社 690円+税)

「夢あかり」倉阪鬼一郎著

 すべての料理を円い器で供す「わん屋」を営む真造とおみね夫婦。馴染み客の娘おまきの祝言の宴を終え、ホッと一息ついているところに、同心の鍋之助が妙な話を持ってきた。

 南茅場町の伊丹屋に押し入った賊が襖に「正月の初めごろから 三月の初めごろまで」と書き残した。咎人の足跡を探ったが、どう見ても盗人とは関係なさそうな小さな飲み屋、かどやにたどり着いたという。

 かどやに覚えのあった真造は訪れた際に猪口を1つ買い、神社の宮司を務める兄に見てもらうと「常ならぬもの……」といわれる。

 数日後、かどやで隣席した客がわん屋を訪ねてきた。真造が思い切って店にいた娘のことを尋ねると、実に不思議な話を語り出す。娘はかどやの亡くなった娘で、月命日だけ姿を見せるというのだ――。

 書き下ろし江戸人情物語。

(実業之日本社 680円+税)

「霧島から来た刑事」永瀬隼介著

 古賀正之は、鹿児島県警を定年退職し、妻と故郷で悠々自適の引退生活を送っていた。

 そんなある日、麹町警察署の警察官・小高彩から電話が入る。正之の自慢の息子、警視庁組織犯罪対策部の刑事の武が行方不明だというのだ。妻の心配を受け、正之は東京へ向かう。

 武の恋人である彩や、上司の倉田などと接触するうち、武は日本一の武闘派組織「桐生連合」に関わっていた可能性が浮かび上がってきた。正之は武を捜す決意をするが、そんな正之に本庁組対刑事で武の先輩である内海がお目付け役につき、一緒に行動することに。やがて正之は内海の協力を得て情報筋に当たっていくが、耳にするのは正之の知らない武の姿だった――。

 著者が初めて故郷を舞台に書いた警察小説。不器用な元刑事が大都会でひとり奔走する姿が胸に迫る。

(光文社 780円+税)

「航空自衛隊 副官 怜於奈(れおな)」数多久遠著

 沖縄の航空自衛隊那覇基地に所属する斑尾怜於奈は幹部自衛官。地対空ミサイル、パトリオットを運用し、弾道ミサイル防衛にも携わる第五高射群に所属し、運用小隊長を拝命している。そんな怜於奈に、第五高射群の上級部隊である南西航空方面隊の副官への異動話が持ち上がった。

 超が付くほどのVIPに仕える副官だが、「お偉いさんのスケジュール管理」くらいにしか考えてない怜於奈は辞退。しかしなぜか、副官を拝命する。溝ノ口司令官の下、着任の状況報告、決裁、突然の訪問者など副官の仕事は多忙を極めた。そんなある日、溝ノ口の官舎で不審な女性の姿を確認する。数日後には、溝ノ口の郵便受けを漁るところに遭遇、怜於奈が厳しく問いただすと、意外な答えが返ってきた。

 元幹部自衛官で自らも副官を経験した著者が、自衛隊が直面するトラブルと人間模様を描く自衛隊小説。

(角川春樹事務所 640円+税)

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