著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「幻綺行完全版」横田順彌著 日下三蔵編

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 秘境冒険小説というのがある。人跡未踏の地に赴き、冒険行を繰りひろげる小説のことで、ハガード著「ソロモン王の洞窟」、ヴェルヌ著「地底旅行」、小栗虫太郎著「人外魔境」など数々の名作がある。

 このジャンルの作品は最近は極端に少なく、さびしい思いをしていたが、横田順彌の本書が復刊されたのはうれしい。この連作集の初刊は1990年だが、その後に書かれた2編も収録されている。完全版と銘打っているのはそのためだ。

 主人公は中村春吉。明治時代に実在した人で、横田順彌著「明治バンカラ快人伝」でも詳しく紹介されているが、自転車による世界無銭探検家といういかにも横田順彌好みの人物だ。本書はその中村春吉が秘境を探検するというもので(途中で知り合った2人の日本人を連れて3人旅になる)、もちろん著者の創作である。

 ボルネオのジャングルで人食い植物と格闘し、チベットの寺院では怪物と、ペルシャの砂漠地帯では巨大な怪魔像と、さらにはアフリカでは沼にすむ悪霊と、それぞれ戦う姿が活写される。ロシアのペテルブルクではバラバラ死体の謎に挑んだりと、目先を変えているのもいい。今回の完全版は、雑誌掲載時の挿絵および単行本の各編扉絵(バロン吉元)を収めるなど、例によって編者日下三蔵の目配りが細部まで利いているのもよし。坂野公一のカバーデザインも素晴らしい。最近充実著しい竹書房文庫の一冊だ。

(竹書房 1200円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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