「漱石と鉄道」牧村健一郎著
夏目漱石は、20世紀の文明を代表する汽車を、何百人もの人間を同じ箱に詰めて運搬し、個人の個性を踏みつけようとする、といい、「あぶない、あぶない、気を付けねばあぶないと思う」と、作品の中に繰り返し書いている。そのくせ、「三四郎」が列車の中の場面から始まるように、作品の出だしやエンディングで、鉄道に大きな役割を与えている。
鉄道が漱石の空間認識を変化させ、時間軸の揺らぎを呼び起こし、漱石の思索を多様化させ、深化させたのだ。福岡から上京する車内で、三四郎はさまざまな人と出会い、未知の世界に踏み出していくのである。
鉄道を舞台にしたさまざまな作品や書簡から、漱石の近代化に対する視点を読み解く。
(朝日新聞出版 1700円+税)