「雷鳴に気をつけろ」ジム・トンプスン著 真崎義博訳

公開日: 更新日:

 20世紀初めのころ、ネブラスカ州の小さな村に、その地に実家のあるイーディ・ディロンが7歳の息子ロバートを連れて列車で帰ってきた。夫が行方不明になり、地元に戻るしかなかったのだ。しかし、実の母親パールと末弟のグラントはあらゆる手を尽くして居心地を悪くさせ、イーディは亡き妹の夫・ファイロの紹介で、冬の間、息子を実家に残して田舎の学校へ働きに出ることになる。

 一方、無職のグラントは美人のいとこベラをモノにしようと企み、人生に疲れ果てているパールは、牧師のある計画に傾倒していた。そして土地の権利書を牧師に渡そうとした時、覆面の男が現れ、牧師を引きずっていった――。

 暴力と狂気が渦巻くダークなノワール小説で知られる著者の本邦初訳。

 誰もが血がつながっているかと思われるほど小さな村で、イーディの父親リンカーンの回想、長兄シャーマンの農場経営、グラントとベラの近親相姦関係などの物語が交錯しながら、同時進行的に語られていく。叙事詩的に一族の姿を浮かび上がらせるも、その世界観は地獄。運命を受け入れ滅んでいく「異常」にページを繰る手が止まらなくなる。

(文遊社 2700円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    岡田阪神は「老将の大暴走」状態…選手フロントが困惑、“公開処刑”にコーチも委縮

  2. 2

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  3. 3

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  4. 4

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  5. 5

    中日・根尾昂に投打で「限界説」…一軍復帰登板の大炎上で突きつけられた厳しい現実

  1. 6

    安倍派裏金幹部6人「10.27総選挙」の明と暗…候補乱立の野党は“再選”を許してしまうのか

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    79年の紅白で「カサブランカ・ダンディ」を歌った数時間後、80年元旦に「TOKIO」を歌った

  4. 9

    阪神岡田監督は連覇達成でも「解任」だった…背景に《阪神電鉄への人事権「大政奉還」》

  5. 10

    《スチュワート・ジュニアの巻》時間と共に解きほぐれた米ドラフト1巡目のプライド