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「東京23区境界の謎」浅井建爾著

 緊急事態宣言でまだ先の見えない東京。しかし密を避け、清潔なマスクで鼻と口を覆って歩けば、新鮮な東京を発見できそうだ。



 子どものころからの地図マニア。20代では自転車で日本一周を果たし、特に県境などの「境界線」を語らせるとこの人、というほど定評がある。

 その観察にかかると東京の23区がいかに不自然なものかがよくわかる。明治4(1871)年の廃藩置県にともなって100以上の区(小区)に分かれた時期もあるかと思えば、その後まもなく15区6郡に再編。やがて35区→22区→23区と変遷したのだという。

 区割りの仕方もまちまちで、銀座の高速道路下は戦後復興の過程で区境のあいまいな場所になり、いまでも中央区か千代田区か港区かはっきりしない。

 また、都庁や超高層ビルが並ぶ西新宿は、かつての淀橋区。大正や昭和の初めには農村の面影を残し、既に都市化の進んでいた四谷区や牛込区は淀橋区との合併を望まなかったという。

 逆に目白と隣接する落合は、地形からみれば神田川に沿って中野区に組み込まれるはずだったが、落合町がさらに農村地帯の中野町や野方町と一緒になるのを嫌って戸塚町、大久保町、淀橋町との合併を東京府に働きかけて新宿区に入ったのだそうだ。

 選挙区や電話の市外局番、自動車のナンバーなど区境にまつわる意外な豆知識のオンパレードだ。

(自由国民社 1300円+税)

「水都 東京」陣内秀信著

 かつて「東京の空間人類学」で江戸東京ブームの火付け役のひとりになった著者。しかしその後の思索で江戸期よりさらに古い中世とのつながりを重視する必要を感じたという。「地形と歴史で読みとく下町・山の手・郊外」と副題された本書はこれまでの仕事の集大成だ。

 水都東京の軸となるのが隅田川。♪お江戸日本橋~と歌われるが、実は日本橋川は江戸期の初めに人工的に整備された掘割。ここが物流経済の基軸となったのに対し、人々が江戸の風情を感じる精神的な支柱は隅田川が担ったのだという。

 これをパリのセーヌ川やロンドンのテムズ川と比較するのは著者ならでは。

 大規模な土木工事で造り替えられてきた江戸と東京の表層を超え、歴史と地理の古層に分け入る知的なスリルが味わえる。

(筑摩書房 1000円+税)

「全力で歩き通せ!」折乃笠公徳著

 某大型商用車メーカーの技術部長だった元サラリーマンの著者。今年で64歳。定年後に始めたウオーキングの一人旅のつれづれをつづったブログが評判になり、東京23区内と神奈川および近郊から選んだ本書で、2冊目の公刊と相なったそうだ。

 東京で歩くのは荒川、大田、葛飾、渋谷、墨田、練馬の各区。それぞれ1章を割いて徒歩での行程と合間の感想でつづる。

 ブログに掲載された写真がこちらに再録されてないのは惜しいが、実直で明朗な著者の人柄が伝わるところがなによりの魅力だろう。田園調布駅に到着したところでは「オシャレ~! 高級~! ほかとは雰囲気がまるで違う」と大いにはしゃぐ。

 照れないところが健康の秘密だろう。

(文芸社 1300円+税)

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