「なぜ、脱成長なのか」ヨルゴス・カリスほか著 上原裕美子ほか訳

公開日: 更新日:

 生態系のバランスの崩壊や気候変動、そして長時間労働や格差などのさまざまな社会問題は、経済の執拗な追求によって生じている。これらを解決する策が「脱成長」であると主張する本書では、欧米で脱成長論を推進する旗手が、脱成長の基本ビジョンや実践例を紹介している。

 脱成長とは、経済成長の追求をストップし、意図的にスローな社会をつくっていくこと。生活や社会の豊かさを富の多さではなく、ウェルビーイング(心身の幸福)の視点から増大させていく考え方だ。そのためには、より少ない搾取と環境負荷で社会を再構築していく必要がある。

 今回のパンデミックでは、さまざまな国で国民を守るための迅速かつ的確な行動が取れずにいた。背景には、収束を待たずに経済再開を急ぎ、何が何でも経済成長を維持したいという思惑があったためと本書。経済成長への固執は、科学的エビデンスやアドバイスを無視することにもつながりやすい。図らずも新型コロナウイルスは、既存の経済システムの脆弱性をむき出しにしたわけだ。

 本書では、脱成長の先駆的な取り組みが紹介されている。例えば、スペインのバルセロナには、社会的連帯経済を推進する団体をつなぐ組織「連帯経済ネットワーク」が存在している。そこでは、政治信条の異なる市民たちが独自に組合を運営。手頃な料金で再生可能エネルギーによる電力を供給する組合や、地域の保護者が共同で運営する子どもの保育を請け負うグループなどがある。そして、これらの組織には約11万人が加わり、6000人もの雇用を創出しているという。

 成長至上主義ではない社会をどうすれば構想できるのか。そのヒントが詰まっている。

(NHK出版 1540円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    野呂佳代が出るドラマに《ハズレなし》?「エンジェルフライト」古沢良太脚本は“家康”より“アネゴ”がハマる

  3. 3

    岡田有希子さん衝撃の死から38年…所属事務所社長が語っていた「日記風ノートに刻まれた真相」

  4. 4

    「アンメット」のせいで医療ドラマを見る目が厳しい? 二宮和也「ブラックペアン2」も《期待外れ》の声が…

  5. 5

    ロッテ佐々木朗希にまさかの「重症説」…抹消から1カ月音沙汰ナシで飛び交うさまざまな声

  1. 6

    【特別対談】南野陽子×松尾潔(3)亡き岡田有希子との思い出、「秋からも、そばにいて」制作秘話

  2. 7

    「鬼」と化しも憎まれない 村井美樹の生真面目なひたむきさ

  3. 8

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 9

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  5. 10

    松本若菜「西園寺さん」既視感満載でも好評なワケ “フジ月9”目黒蓮と松村北斗《旧ジャニがパパ役》対決の行方