「日本疫病図説」畑中章宏著
コロナに翻弄される日々も1年半が過ぎようとしているが、そもそも人類の歴史は、感染症との戦いの歴史だった。
顕微鏡が登場するまで、感染症はもののけや怨霊、悪鬼など目に見えない存在によってもたらされると信じられていた。
疫病が蔓延すると、朝廷や豪族は疫病退散のために神仏を動員して祭りを行い、神社を創建したり、伽藍を建立して仏像を造営したりした。
一方、民衆は疫病を流行させる悪鬼を疫病神(厄病神・疫神・厄神)と呼び、村境にしめ縄を張ったり、大きなわらじをかけたりして侵入を防いだ。
社寺から授けられた護符を張ったり、絵馬を奉納して疫病神を除こうとする習俗は現代まで続く。
疫病除けの祈願を視覚化した「疱瘡(天然痘)絵」や「はしか絵」など、中には芸術性の高いものもある。
本書は、そうした疫病にまつわる美術や工芸品などの「疫病芸術」をはじめ、社寺の祭礼や郷土玩具など、病魔退散の祈りから生まれたさまざまな表現を紹介するビジュアルブックだ。
古くは、平安時代末期ごろに描かれた国宝「辟邪絵」から、コロリ(コレラ)流行の際に広まった秩父の三峯神社のオオカミの護符や、疫病の流行を予言したご存じ「アマビエの図」、そして明治23年に月岡芳年が、天然痘を患った子供を背負った「痘鬼神」を源為朝がにらみつける場面を描いた「為朝の武威 痘鬼神を退くの図」(連作の一枚)まで、日本人が疫病と向き合ってきた歴史とともに紹介。
著者は「疫病をもたらす疫神との交渉は、さまざまな表現をとりながら、私たちの生活をある側面では豊かにしてきたとも考えられる」と記す。
先人たちの豊かな発想を楽しみながら、ポストコロナに思いを馳せる。
(笠間書院 1760円)