「同調圧力の正体」太田肇著/PHP新書

公開日: 更新日:

 新型コロナ騒動により、日本人の「同調圧力」の強さを思い知った人も多いだろう。各国はロックダウンやマスク着用を義務化。外に出たら罰金やムチ打ち刑に。豪州では、マスク非着用の人間には大勢の警官が寄ってきて捕捉したり殴る。

 他方、日本のコロナ対策とやらは基本「お願い」ベースで、周囲の様子を見ながらほぼ全員がマスクを着け、店の入り口では消毒をした。「マスク警察」が登場したり、時短営業を守らない店は密告され「人殺し」と貼り紙がされ、都会に住む子供は地元に帰ってこないよう故郷の親から言われる。店舗入り口には「マスク門番」がいて、マスクなしの者が入ったら追いかけ、説得を試み、それでも着用しない場合は追い出す。ここには一切法律は存在しない。

 これが同調圧力の実態だが、見事なまでに国家や自治体の「命令」と法改正抜きで行動制限を達成した背景について本書は解説する。2度目の緊急事態宣言中、「時短のお願い」に従わなかった店に対し東京都は「命令」を出し、過料を科すと宣言。「お願い」に従わなかったグローバルダイニングは「命令」は違法・違憲だとし、損害賠償請求の訴訟を起こした。著者は行政は「衣」を破ろうとする者には「鎧(よろい)」の存在を見せつける必要があると前提を述べ、こう続ける。

〈行政の立場からすると「違反」を放置したら自粛している店舗に示しがつかなくなり、営業自粛という手段が使えなくなる恐れがある。そのため、同社に対しては時短命令という厳しい措置に踏み切らざるをえなかったのだと推察される〉

 この「お願い」に伴う同調圧力による支配のやり口の結論はこれだ。

〈最初から強制に頼る欧米式の組織に比べて一見すると弱腰のようだが、実はより強力だということができる〉

 その通り。2021年10月、緊急事態宣言が解除されても一部知事が時短営業を求めたこともあり(法的根拠ナシ!)、「感染対策圧」「自粛圧」は変わらず、見事なまでの同調圧力による相互監視社会が完成した。日本の方が海外より圧倒的に強固な管理社会である。

 そして、いくら海外諸国がマスクを外し、イベントでスタジアムを満席にしようが日本はその気配がない。理由はコレだ。

〈成功したときの評価より失敗したときの責任追及が厳しい社会では、客観的にみてメリットが明らかにデメリットを上回るような政策でも為政者を尻込みさせる〉

 バカげた国である。 ★★★(選者・中川淳一郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」