「限界風俗嬢」小野一光著

公開日: 更新日:

 SDGsのゴール5に示されている「ジェンダー平等を実現しよう」。

 この目標を達成するため、平等以前に「人身売買や性的、その他の種類の搾取など女性及び女児に対するあらゆる形態の暴力を排除する」という目標もある。それは、日本にとっても大きな課題だ。

 本書では、20年以上にわたる取材で風俗業界に身を置く女性の本音に耳を傾けてきた著者が、心と体の限界を超えて働く彼女たちの切実な現実をつづっている。日本の風俗で働く多くの女性は人身売買などとは無関係で、自分の意思でその職業を選んでいるかもしれない。しかし、本書に登場する女性たちが、風俗に行き着くまでの背景は壮絶だ。

 SMクラブで働いていた現役女子大生のアヤメさんは、小学6年の頃に中学1年の男子からイジメを受け、集団レイプの被害に遭っていたと話す。さらに彼女が中学生になると、事もあろうに売春を強要され、金を巻き上げられ、目標金額が達成できない場合は暴行を受けていたというのだ。

 実は相手の男子は、地域のスポーツチームにも所属する優等生で、時にはレイプにチームの上級生なども参加していたという。そして売春の過去をばらすと脅され、その関係はアヤメさんが高校2年生まで続いたそうだ。

 そのような体験を経てまで、なぜ風俗で働いているのか。アヤメさんは、どこかで異性の優しさや性行為を求めていると自身を分析している。同時に、売春をさせられていた頃と比べて、風俗店で働くことは安全で安心と語るのだ。

 他にも、義父から性的虐待を受けていた女性や妊婦の風俗嬢などの、赤裸々な言葉が積み上げられたノンフィクション。これが日本社会の現実なのだ。

(集英社 1540円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」