「百万本のバラ物語」加藤登紀子著
加藤登紀子の代表曲「百万本のバラ」には、数々の物語があった。本書は、縁あって「百万本のバラ」を歌うことになった著者自らが、この歌の歴史や背景を探りながら、国家に翻弄される人々の人生と、自らの過去との不思議な巡り合わせに思いを馳せたエッセーだ。
「百万本のバラ」の原曲は、ラトビアの子守歌。「マーラが与えた人生」というタイトルで、キリスト教の女神であるマーラに対して、子どもを与えてくれたのになぜ一緒に幸せを運んでくるのを忘れたのかという歌詞になっている。ロシア革命時にロシアから独立したラトビアは、独ソ不可侵条約を期にソ連に侵入され、再びソ連に支配されたのだが、その際「マーラが与えた人生」も歌詞を変えられ、ラブソングに生まれ変わった。
1943年に中国東北部ハルビン市に生まれた著者が、子どもの頃の満州での敗戦体験や、ロシア人やウクライナ人と深い縁があったことをつづっていく。
「百万本のバラ」の歌で、国境を超えてつながる人々の、ひとりひとりの物語を呼び起こそうとする著者の強い思いが伝わってくる。 (光文社 1760円)