泉麻人(コラムニスト)
7月×日 秋の頃に「昭和50年代」を切り口にした本を出すこともあって、その時代の人や風俗を扱った本には敏感になっている。“ピンク色のジュリーの肖像”の表紙が目につく島崎今日子著「ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒」(文藝春秋 1980円)は、週刊文春の連載時から気にかけていたノンフィクションである。著者は1954年生まれとプロフィールにあるから、56年生まれの僕とほぼ同年代だ。2コ上の女子というと、まさにタイガースの出現にド真ん中で立ち合った世代だろう。彼らがCMをやっていた明治チョコレートの景品をめぐるエピソードなどが生々しい。
BL(ボーイズラブ)的な視点も含めて、ライバルのショーケン(萩原健一)との比較論も読みどころの1つ。74年の夏に撮られたドキュメンタリーにジュリーとショーケンが新宿ゴールデン街で飲むシーンがあり、それがユーチューブにアップされている…と書かれていたのでチェックしてみたが、ゴールデン街に行く前に乗った丸ノ内線車内でジュリーがタバコをくわえているのにびっくりした。ゲリラ撮影ではないだろうが、まだこういうロケができたのだ。
7月×日 これはジュリーの本より少し前に、初読した1冊だが、近田春夫著「グループサウンズ」(文藝春秋 990円)にもタイガースの話はくわしい。鼎談に登場する元メンバー・瞳みのる氏の談話も興味深いが、この本を読んで改めてGSブームを回顧すると、ピークはほぼ1968年の1年間(大ヒット曲はせいぜい前年後半からこの年まで)。本当に短い期間だったことに驚く。
ちなみに68年の僕は小5から小6。当時、駄菓子屋で怪獣のブロマイドとともにGSのブロマイドを売っていたのだが、タイガースのが1枚手元にある。衣装から察して「モナリザの微笑」を歌う「ザ・ヒットパレード」の1シーンと思われるが、彼らの背後に番組スポンサーのGlicoの看板がデカデカと写りこんでいる。(C)渡辺プロ、と入っているが、こういう競合にも寛容な時代だったんだね。