酉島伝法(作家)
5月×日 「ユリイカ2023年7月号 特集=奇書の世界」(青土社 1980円)で円城塔さんとZOOM対談するため、朝から本を集める。書斎が暑すぎるがエアコンのリモコンが見つからないまま時間になり、対談中はずっと顔が真っ赤に。わたしが海外の奇書の題を口にする度、円城さんはすっと書棚から出してくる。
6月×日 ひたすら長編の推敲。のはずが、キム・チョヨプ、キム・ウォニョン著「サイボーグになる」(牧野美加訳 岩波書店 2970円)を読む。SF作家と、俳優で弁護士の作家、というふたりの障害当事者が語る、障害を克服するテクノロジーの幻想や非現実性などの話に大きな示唆を受け、何時間もかけてメモを取る。
6月×日 ひたすら長編の推敲。すこし休憩するはずが、キム・ボヨン著「どれほど似ているか」(斎藤真理子訳 河出書房新社 2530円)に没頭してしまう。読みやすいのに濃密で、一作ごとに本を閉じて反芻する。社会問題にSFアイデアを絡めた思考実験の、物語への落とし込み方がちょっとない感じ。
6月×日 ひたすら長編の推敲をしていたら、ずっと待望していた倉田タカシさんの短編集「あなたは月面に倒れている」(東京創元社 2090円)が届いた。前代未聞の前衛小説から、スパムが歩いて話しかけてきたり、猫とアプリで話せるようになったりする未来の話など。奇想が畳み掛けてくる。
7月×日 長編の推敲をするはずが、デイジー・ジョンソン著「九月と七月の姉妹」(市田泉訳 東京創元社 2200円)が届いて貪り読んでしまう。「アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション」(岸本佐知子ほか訳 スイッチ・パブリッシング 2640円)という、ものすごく面白いアンソロジーが昨年出て、その表題作を書いたのがデイジー・ジョンソンだった。暴風みたいな姉と内気な妹の分かちがたい関係が、跳ね回るような言葉で生き生きと不穏に描かれていてすばらしい。依存からの自立の物語でもある。