「ばらまき 河井夫妻大規模買収事件 全記録」中国新聞「決別 金権政治」取材班著/集英社(選者・プチ鹿島)
「ばらまき 河井夫妻大規模買収事件 全記録」中国新聞「決別 金権政治」取材班著/集英社
自民党の裏金問題は今もろくに説明されていない。そこで読んでおきたいのが本書だ。2019年の参院選広島選挙区を舞台にした買収事件の記録である。
きっかけは文春砲だった。河井案里陣営が選挙中に車上運動員たちに上限の倍の報酬を渡していたという「週刊文春の調査報道による、見事な特ダネ」に「完敗だ」と思ったと正直に書いている。ここから地元の中国新聞は意地を見せる。広島県議選の際に河井夫妻が自民党の県議に現金を配ったという話を記者がつかみ、反転のスクープとなる。その後も文春や全国紙との取材競争は続く。
今読むと改めて重要な記述が多い。自民党本部から河井陣営側に1億5000万円が振り込まれていたことが注目されたが、中国新聞は取材を積み重ねる中で行き着いた結論があった。「1億5千万円はばらまきの原資ではない」。では、買収資金はどこから出たのか。
「政党にも使途報告書が不十分なカネがある。最たる例が政策活動費」
つまり1億5000万とは別に、政権中枢から「表に出ないカネ」が河井夫妻に提供され、買収の資金に充てられた疑いがあると。中国新聞は21年にすでにそう書いていた。その上で最近のスクープを見てみよう。
昨年9月に報じた「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」。検察が河井克行元法相の自宅から押収したメモだ。甘利氏は河井氏へ100万円を渡したと認め、〈他の候補にも一律に持って行っている。(原資は)党からのお金〉(中国新聞24年2月14日)と話した。
ここで重要なのは「裏金」と中国新聞が書いていること。
〈使途公開の義務がなく、事実上の裏金と指摘される自民党の「政策活動費」を使い、陣中見舞いとして「裏金」を全国で配り回っていた可能性がある〉(同前)
中国新聞の取材にまっとうな地元紙の姿を見た。今後も注目だ。 ★★★