「孤闘 三浦瑠麗裁判1345日」西脇亮輔著/幻冬舎
「孤闘 三浦瑠麗裁判1345日」西脇亮輔著
ゲンダイ読者の中にはキャリアや年齢的に自分の「将来」が見えてきた方も多いだろう。この本の著者である西脇亨輔氏もそうだった。
テレビ朝日でアナウンサーとして活躍し、その後は法務部長として勤務。50歳を過ぎたので、このまま順調に仕事をしていれば局内で出世していくはずだった。
ところが、ある日、三浦瑠麗氏のツイッター(現X)の発信により、秘していたはずの夫婦のプライバシーが世の中に知られてしまった。西脇氏は闘うことを決意した。弁護士の資格があるのでプライバシー権の侵害を訴えれば勝てるはずと確信したのだ。しかし、迷いもあった。三浦氏の件を我慢しさえすれば安定した将来が待つだろう。さぁどうする? 人生の選択である。
私がうなったのはこのとき、西脇氏が「原点」を思い出したことだ。
司法試験合格後にほぼ初めてテレビを見たのが「ニュースステーション」だったという。おかしいことはおかしいと報じる姿勢に共鳴し、司法の道からテレビ業界に入った。なので今回も原点を貫き通さなければ自分ではないと決心したのである。黙っていていいのかと。
近年のネットや表現の場での「言ったもの勝ち」「目立ったもの勝ち」という風潮に一矢報いたいという思いもあった。
本の読みどころとしては西脇氏と三浦氏側の裁判の部分が注目されるだろうが、私は西脇氏の「自分との闘い」に響いた。裁判での「孤闘」はすさまじかった。他の弁護士に依頼せず自分だけで裁判を行う、いわゆる本人訴訟を選んだ。
判決までの過程を読んで、人間はここまでストイックになれるのかとため息が出た。決して自分をねじ曲げないという強靱さが全編から漂う。自分の原点を守る、という姿勢。理想としては誰でも言えるだろうが、そこに出世や将来が見えたら踏み切れないのが人情だ。
誰もが西脇氏にはなれないが、生き方の一つとして多くの「おじさん」に読んでほしいと思った。私もおじさんなので読後感がすごかったなぁ。 ★★★(選者・プチ鹿島)