「百花繚乱の美人画ポスター」田島奈都子著

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「百花繚乱の美人画ポスター」田島奈都子著

 現存する最古の美人画ポスターは、石版印刷で作られた1894年の巻きたばこ「ヒーロー」を宣伝するためのもの。戦前までの商業ポスターの9割以上にこうした容姿端麗な美人が描かれ、見るものを振り向かせてきたという。

 本書は、戦前の日本人たちを魅了したそんな傑作美人画ポスターを紹介しながら、その歴史や魅力を解説するビジュアルブック。

 戦前期、ポスター用原画の製作を担っていたのは現代のグラフィックデザイナーに相当する「図案家」と呼ばれた人々だった。一方で、美人画ポスターには女性像を得意とする画家が多く起用された。彼らは画力のみならず、流行や風俗に関する研究にも余念がなく、当時の市民の好みにも精通していたからだ。

 まずは、そうした著名な画家たちの原画によるポスターを鑑賞していく。

 第1次世界大戦が開戦した1914年、日本は未曽有の好景気に沸いた。以降の数年間に製作されたポスターは、戦前期を通して最も豪華だという。

 その一枚、大阪の日本画壇を代表する北野恒富による「菊正宗」(1914年)は、1枚刷りのポスターとしては最大級の四六倍判に匹敵する大きさ(136.5×96.0センチ)で、金銀色もふんだんに用いられている。

 東京の日本画家、池田蕉園による「大日本麦酒株式会社」(1915年ごろ=写真①)のポスターは、振り袖姿の女性がビールの入ったグラスを片手にテーブルについている。ほろ酔いなのか頬が桜色に染まり、思い人でもいたのだろうか画面の外の誰かに流し目を送っている。

 テーブルにはビール瓶がラベルをこちらに向けて整然と並んでおり、当初からポスターになることを前提に描かれた作品のようだという。

 当時の画壇にはポスターに携わることを卑下するような空気も存在したが、鏑木清方は著名になってからもポスターや雑誌の表紙絵などの仕事にも積極的に携わったそうだ。

 その一枚「松屋呉服店 ないしょばなし」(1916年=表紙)は、複数の人物が登場するポスターがまれだった戦前期の美人画ポスターにおいて、「ないしょばなし」を画題にすることで、必然的に女性2人を登場させ、2種類の豪華な衣装を見せることに成功している。

 このポスターを効果的に用いた当時のウインドーディスプレーの様子を撮影した写真も現存している。

 以降、画家に頼らず実力ある図案家らによって作られた力作や、李香蘭(写真②)や原節子ら当時の銀幕のスターを起用したポスター、そしてセミヌードの女性の写真を大胆に使用したあの有名な「赤玉ポートワイン」(1922年=写真③)など、当時としては大胆に思えるエロチシズムを感じさせるポスターまで。

 戦争の暗い影が市民生活に及びはじめた1940年前後の作品までジャンルごとに分類して紹介。

 大正・昭和の時代の空気に触れられるおすすめ本。

(芸術新聞社 3630円)


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