パリ郊外の移民団地をめぐる行政と住民の闘い

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「バティモン5 望まれざる者」

 四半世紀近く前、スウェーデンで移民排斥の調査をしたことがある。ある自治体が移民排斥の条例を決議したのを政府が強引に止めに入ったのだ。表面的な観光イメージとは裏腹に重工業が盛んなスウェーデンは、早くから底辺労働者を欧州域外から吸い寄せてきたのだった。

 あれから月日が流れ、グローバル化全盛だった昔は見逃された移民問題がいま、欧米全体で燎原の火のように広がっている。

 今週末公開の「バティモン5 望まれざる者」は、この現実を材にしたフランス映画。

 パリ郊外の「バンリュー」と通称される移民団地の再建問題に向き合うことになった若手市長ピエール。本業は小児科医で穏健清廉だが、政党内で汚れ仕事を押しつけられた経緯もあって次第に高圧化する。他方、団地住人の若いアビーは強制的な立ち退き措置に反発して市長選に立候補。ピエールらの主流社会と真っ向から対決していく。

 監督のラジ・リは旧仏植民地のマリから3歳でバンリューに移り住んだ事実上の2世。清掃夫の父の苦労を見て育ち、20代で移民差別のドキュメンタリーを製作。本作は劇映画2作目だが、解決策なき移民問題を半端に扱うことなく堂々たるリアリズムを貫く。

 アビー役の黒人女性アンタ・ディアウと並ぶ市長役のアレクシス・マネンティがいい。善良で良識あるリベラル小市民が人種の絡む社会問題で態度を硬化させていくさまを演じて、きわだった存在感だ。

 ヴィクトール・ユゴー著「レ・ミゼラブル」(全5巻 平凡社 1650円~)はその昔「ああ無情」と訳題された貧困と差別の古典的長編。しかし、話はいまや人畜無害のミュージカルになり果てている。実はラジ・リの前作が「レ・ミゼラブル」。時は現代、舞台はバンリューと、いわば題名だけ本歌取りした力作。そこから本作へと現代の差別貧困譚はさらに成長したのである。<生井英考>

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