「秘境、辺境、異文化世界の絶景植物」湯浅浩史著
「秘境、辺境、異文化世界の絶景植物」湯浅浩史著
メキシコのオアハカ民族植物園に行ったのは、5年前の夏。さまざまな形のサボテンに埋もれて過ごす優雅な時間だった。帰りに名物のバッタ料理を食べたっけ。あぁ円安地獄のいまとなってはすべてが夢のようだ。オアハカのサッカーチームのエンブレムがバッタで、あのださい(失礼)ユニホームを買わなかったのが悔やまれる。いつか各地の植物園や国立公園をめぐってみたいなぁ。
さて本書は、めぐりもめぐったり世界60カ国超を旅した植物学者による辺境の植物案内だ。著者は草木や花に会うためにどんな困難もいとわない。「右側は絶壁、左側はオーバーハングの崖、道路は狭い一車線。インド人の運転手の腕を信じて、ひたすら対向車の無いことを願」ったり、「国立公園の案内看板の無数の銃撃跡」にビビりながらコロンビアの「ゲリラの領域」を進んだり、軍用ヘリコプターでギアナ高地に降り立ったり。つづられる旅の行程に植物愛および執念がにじみ出ているのがおもしろい。
植物は、置かれた環境に適応して独自の進化を遂げてきた。へー、バオバブは幹で光合成できるなんて知らなかった!など何度も驚いた。掲載されているのは植物の写真ばかりだが、ラオスではほうきにするタイガーグラスの穂を背負って歩く子どもたちが出てきたり、スリランカではお寺に供える仏花が出てきたりと、ところどころで人々の暮らしの息遣いがのぞけるのがまたうれしい。
あとがきに「世界に秘境、辺境の地は数々あり、私の探訪できたのは、ほんの一部にしか過ぎない」とある。あぁ、これほどの先生でも行き尽くせない地球の大きさよ。 (淡交社 2530円)