「地球上の中華料理店をめぐる冒険」関卓中著、斎藤栄一郎訳
「地球上の中華料理店をめぐる冒険」関卓中著、斎藤栄一郎訳
世界中に中国移民がいて中華料理店がある。昨年、本欄で紹介した「地球グルメ大図鑑」にも「本国から最も遠いチャイニーズレストラン」なるページがあり、意外なところに存在する中華料理店にわたしは胸を躍らせたのだった。
各地の中華料理店にはどんなメニューがあり、どんな料理人がいるんだろう。訪ねてみたい。
でも世界をめぐるには莫大な資金と語学力、そして人脈が必要だなぁ(遠い目)。なんとその3つを兼ね備え、夢のプロジェクトを実行した人がいる! その壮大な旅をまとめたのが本書だ。
5大陸15カ国の中華料理店を訪ねる旅。店は北極圏にあったり、ジャングルの中にあったりする。その土地の食材や調味料と融合し独自の進化を遂げたメニューもあれば、「こんなところで最高級本格中華に出会うとは」とたまげる一品に出会うことも。料理の描写の見事さにお腹がすく紀行文だ。
でもこの本の本領はそこではない。中国移民の個人史から見えてくる世界の近現代史、あぁそのダイナミズムよ!
カナダ太平洋鉄道の敷設に駆り出された大量の中国人労働者。毛沢東から逃れてベトナムに渡り、ホー・チ・ミンから逃れてさらにイスラエルに渡った人。南アでアパルトヘイト反対運動に加わった華人。マダガスカルには19世紀から中国文化が流入し「スプ・シノワーズ(ワンタンスープ)」はいまや国民食だとか。
いや、近現代どころか明の永楽帝の時代(コロンブス以前)に大船団を率いて航海した鄭和にまで話は及ぶ。こんなスケールの大きな本は、香港生まれのマルチリンガルだというこの著者にしか書けないだろう。 (講談社 2200円)