「彼女たちの戦争嵐の中のささやきよ!」小林エリカ著
「彼女たちの戦争嵐の中のささやきよ!」小林エリカ著
10代の頃、憧れの先輩がいた。物知りで反骨心があって、ちょっとひねくれたタイプ。先輩は「選挙には行かない。政治なんてくだらない」と言い、わたしはその態度をかっこいいと思っていた。無知&バカでした。
大学生になって、慕っていた先生が「選挙には行きなさい」と静かに言ったので、わたしは宗旨変えをした。大人になる前に方向転換できてよかった(当時は選挙権年齢が20歳だった)。先生は日本で生まれ育ったが中国籍で、自身は選挙権をもっていなかった。
そんな昔のことをしみじみ思い出したのは、女性参政権運動の闘士エミリー・デイヴィソンについて読んだから。1913年6月4日、イギリスのエプソム競馬場で行われたダービーに国王の愛馬が出走した。エミリーは、猛スピードで駆けてくる馬の前に身を投げるという決死の抗議行動をやってのけた。そして頭蓋骨骨折の重傷を負い、4日後にこの世を去る。その葬儀には、女性参政権を求める白いドレスの女性たちが多数参列したという。
イギリスの女たちが投票権を手に入れるまでにさらに5年を要した。「いま、女である私が、手にしているこの権利は、かつて、彼女が、彼女たちが、命を賭して、手にしたものだ」と著者は書く。
本書には、近現代史のなかで闘った女性の物語が28編おさめられている。アンネ・フランクや伊藤野枝といった見知った顔もあり、初めて聞く名前もたくさん。いまわたしが(いろいろ憤慨しながらも)大きく呼吸ができているのは、彼女たちのおかげだと手を合わせる。こうして一冊にまとめてくれた著者にも。 (筑摩書房 1870円)