「世界の美しいモスク」深見奈緒子著
「世界の美しいモスク」深見奈緒子著
家から徒歩圏内のところにいい「やきとん」の店があり、ときどき友人を連れていって自慢する。肉の鮮度も焼き加減も抜群で、お酒の種類も豊富、そのうえ安くて最高だ。
友人を案内する際、わたしは「そのやきとん屋さんの裏にね、モスクがあるんだよ」と言わずにはいられない。イスラム教の祈りの場と、豚肉を焼く煙が充満した店がこんなに近くにあるなんて。世の中はフクザツでおもしろいなぁ。日本にもイスラム教の人が増えて、この10年でモスクもどんどん誕生している。
日頃は豚肉と酒にまみれている異教徒のわたしだが、これまで国内外のモスクにお邪魔する機会が何度かあった。その都度イスラム教徒の友人に教えてもらいながら、肌を隠し、スカーフで髪を覆い、手足を洗っておずおずと。大きくて立派な海外のモスクも、日本の路地にあるこぢんまりしたモスクも、清潔で穏やかな空気が流れている。
さて本書は、世界の有名なモスクが網羅された珠玉の写真集。これがまぁ、じつに美しい。夕日に映えるミナレット(塔)、月を従えるドーム屋根、柱の彫刻、壁のタイル……イスラム建築の最高峰に圧倒される。
いずれも歴史ある名建築だけに、付随する物語も興味深い。トルコではキリスト教会がモスクに改装され、スペインではモスクがカテドラルに変わった。シリアのモスクの一部は内戦で粉々に破壊されて今はもうない。
そしてなにより巻頭の「基本解説」が、わたしにとってはお宝ページだった。モスクで見かける幾何学模様や植物文様のデザイン作法や意味がわかりやすく説明されていて、ワクワクした。
(エクスナレッジ 2200円)