「マザー」乃南アサ著

公開日: 更新日:

「マザー」乃南アサ著

 結婚して婿養子に入った岬樹は、4年ぶりに故郷に降り立った。新型コロナの間に立て続けに祖父母と父が亡くなり、1人になってしまった母を心配し訪ねることにしたのだ。実家に向かいながら懐かしい記憶が蘇る。

 岬樹の一家は祖父母と両親、兄・姉の7人の3世代家族だった。にぎやかで仲が良く、その中心にいるのは母。祖母からは「笑いの神様がついている」と言われるほどほがらかな人だった。子どもたちが巣立つと、母は1人で認知症になった祖父母を介護し、看取った。自慢で頼りになる母だった。

 ところが、岬樹を迎えた母が語ったのは、子どもの前では明るく振る舞っていたが、いかに家政婦扱いされてきたか、だった。「我慢にも限界があるのよ」。母の心中を知った岬樹は愕然とする。(「セメタリー」)

 これまで鋭い心理描写で社会を描いてきた著者の最新刊。今作では母という役割を持った女性たちの裏にある、本当の姿を5編からなる連作短編で描き出した。

 ほかにも「アフェア」など、令和に生きる昭和生まれの女性たちとその子どもたちが登場するが、子どもたちは母親の葛藤や悩みには思い至らない。いつの時代も、母親が母親ではなかった時代や「女性」であることは案外、見ぬふりをされがちだったと気づかされる。

(講談社 1980円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    大河ドラマ「べらぼう」の制作現場に密着したNHK「100カメ」の舞台裏

  1. 6

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  2. 7

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  3. 8

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  4. 9

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  5. 10

    トランプ関税への無策に「本気の姿勢を見せろ!」高市早苗氏が石破政権に“啖呵”を切った裏事情