「世阿弥最後の花」藤沢周著
「世阿弥最後の花」藤沢周著
永享6年5月、世阿弥は長い船旅の末、佐渡に到着する。能役者の世阿弥は、かつて足利義満の特別な寵愛を受け、観世座を率い、醍醐寺清瀧宮神事猿楽の勤めを拝してきた。
しかし、現在の将軍・義教の勘気をこうむり、72歳の身で佐渡へ遠流になったのだ。2年前には、息子・元雅が出先の伊勢で毒を盛られ殺され、その心中は計り知れない。
船がついた太田の浦から、配処先の万福寺まで移送される道中、世阿弥は峠の名や、立ち寄った観音堂に、自身の人生やこれまで舞った曲との不思議なつながりを感じる。それは、道中に付き添った佐渡の惣領の家臣・溝口の計らいだった。かつて鎌倉で能に親しんだ溝口は、前夜、浜で心のままに舞う世阿弥の姿に心打たれたのだった。
幽玄の美を極めた世阿弥の晩年を描く時代長編。
(河出書房新社 990円)