石破政権下の自衛隊
「元自衛隊員は自衛隊をどうみているか」ミリタリー・カルチャー研究会著
「元自衛隊員は自衛隊をどうみているか」ミリタリー・カルチャー研究会著
京都大学のほか防衛大学校の教授らもまじえて活動する研究会。軍事に不慣れな日本にどんな軍事文化があり、その象徴にあたる自衛隊を社会はどう見ているか。そんな観点で出された前著から3年。本書は自衛隊の退職者の目から見た自衛隊像の探究だ。
対象は2000人。質問は安全保障政策、自衛隊の組織や広報のあり方、ハラスメント対策、待遇、自衛隊映画や文学作品、退職後の職業まで多岐にわたる。その結果わかることも多い。
自衛隊の存在は違憲かという難問をめぐっては、憲法改正の必要性を「ある」との答えは7割を超える。しかしよく見ると、「将」クラスつまり将軍に当たる高齢世代で「改正しない」が8.1%に対して20代の若い元自衛官になると22%と3倍近くにまで上昇するのだ。自衛隊が日陰者あつかいだった記憶を持つ世代と「自衛隊協力映画」がもてはやされる時代に若手として過ごす世代との明らかな差だろう。
また今後10年のうちに「有事」があるかという問いにはおよそ4分の1が「ある」と答えたが、中でも准尉・曹クラス(下士官)だと31.9%とかなりの率に上がる。これも現場指揮官クラスの偽らざる実感の表れだろう。本書をもとにどう考えるか、読者に委ねる姿勢がいい。 (青弓社 3300円)
「異様!テレビの自衛隊迎合」加藤久晴著
「異様!テレビの自衛隊迎合」加藤久晴著
お笑い芸人が富士演習場で戦車に乗り込んではしゃぐ。近頃では珍しくなくなったテレビ番組の光景だ。かつて三島由紀夫と「楯の会」のメンバーが自衛隊に体験入隊したときの騒ぎをおぼえているような世代には絶句する眺めだろう。本書の著者はまさにその世代。元テレビマンだが、現代のテレビにあふれる自衛隊賛美の風潮に警鐘を鳴らす。
風潮が強まったのは2013年のTBS系ドラマ「空飛ぶ広報室」。主人公はテレビ局に勤める女性ディレクター。演じるのは抜群の人気を誇る新垣結衣だ。空自の宣伝ドラマとして放映中から論争を呼んだが、実はかつて同じTBS系列で放映中止に追い込まれたドラマが「ひとりっ子」。高校卒業後の進路で防衛大学校を考え、自衛官の話を聞きにいくストーリーだった。1962年、まだ特攻世代もその家族も若かったころの話だ。本書の著者はこのドラマの話に何度か触れる。かつてのテレビ局との志の違いを嘆いているようだ。
同時期に出版された須藤遙子「映画のなかの自衛隊」(大月書店)と読み合わせると考えさせられることが多い。 (新日本出版社 1980円)
「映画のなかの自衛隊」須藤遙子著
「映画のなかの自衛隊」須藤遙子著
いまやミリオタを公然と自称する政治家が首相になる時代。映画界も自衛隊が全面協力なのを売り物にするご時世だ。本書は日本映画史における「自衛隊協力映画」を時系列的にたどり、どのような経緯と情勢下で「協力」が成立したのかをたどる。映画論ではなく、「防衛省のメディア広報戦略」(副題)を論じるメディア研究者の仕事だ。
たとえば話題になった「シン・ゴジラ」(2016年)は防衛省、大臣官房、陸自そのほかが全面協力し、実際の最新装備も惜しげもなく披露された。自衛隊の方も映画のイメージやキャラクターを使って「この今を、未来を、守る。」と募集キャンペーンを展開した。自衛隊と映画の相互依存関係が露骨だ。ちなみに「ゴジラ-1.0」は本書には登場しない。なぜならあの映画は「自衛隊創設以前」の話だから。
著者によれば自衛隊協力の原点は空自映画。米軍が基礎を作った点で陸自や海自と違うことを含め、若者の憧れを利用した宣伝映画の最初が「今日もわれ大空にあり」(1964年)だった。2013年に出た本の改訂版だが、この10年でどっと「協力映画」が増えたことに気づかされる。 (大月書店 2640円)