著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

NoDo_(祐天寺)「人生にも余白を」の思いに込めたシェア型本屋

公開日: 更新日:

 祐天寺駅から、住宅街を歩き、忽然と現れたのは、青色の本屋さん。

 店内に入ると、壁が、外より深い青色。店主の深澤弘至さん(47)が、「僕の好きな色です。光線によって微妙に色が違って見えるんですよ」と。
その青色に、30センチ四方に区切られた濃茶の本棚が映え、渋色のドライフラワーがしっくりくる。相当練った空間と思ったが、「去年4月に“勢い”でオープンさせちゃったんです」って、どういうこと?

 介護職だった。元同僚の妻、みどりさん(33)ともども本好きで「いつか本屋さんをやりたいね」と夢を語っていた。それが、2023年10月に突如現実味を帯びる。2人で吉祥寺を歩いていたとき、シェア型書店の草分けのひとつ「ブックマンション」にたまたま入ったのだ。シェア型書店というものの存在を知り、「仕入れとか本屋の基本を知らなくてもできそう」と心躍った。

 思い切って、オーナーの中西功さんに「僕もこういう本屋をやりたいです」と言うと、いとも簡単に「じゃあ、やれば」。

 元手はあった。中西さんが惜しみなくアドバイスしてくれ、6カ月後にオープンと相なったのだ。

本を中心にニッチな人たちが集まって新しいことをできる場をつくりたかった

 店名「ノド」は、本の中心にある余白を指し、「人生にも余白を」の思いを込めた。棚は150作り、棚主をSNSなどで募集。3850円で貸している。

 石井光太や上原善広ら社会派の本が並ぶ「古書三丁目」さん、着物のビジュアル本や森下典子「日日是好日」を置く「柚希」さん、「なりたい自分との出会い方」を面陳列する「Books Sailing」さんの棚に目がいく。

 空いている棚には、新刊中心に深澤さん夫妻の推し本がずらり。深澤さんはミステリー、みどりさんは絵本が得意分野だ。

「店をやりながら考え、近頃分かってきたのは、僕は、本を中心にニッチな人たちが集まって新しいことをできる場をつくりたかったんだ、ということです」と深澤さん。壁面をギャラリーにして作品展示、室内で自由度の高い「放課後の図書室みたいな読書会」を開催など。

「イベント会員」の制度がスタートし、よき“勢い”が加速している。

◆目黒区中央町2-3-8/東急東横線祐天寺駅・学芸大学駅から徒歩12分/12~18時/月・火曜休

ウチらしい本

「夫が脱サラしてシェア型書店やりたいってよ」ふかざわみどり著


「僕が『本屋をする』と言い出してから店を持つまでの“開業物語”を妻が書きました。全52ページのジンです。最初、『両親にどう説明すればいいんだ』と思ったそうですが(笑)、ポジティブな妻は3秒で『ええんちゃう?』と。ところが、その2日後に2人目の子供を妊娠していると分かり、うれしい半面、混乱。出来事と思いが、赤裸々につづられています。僕はこれを読んで、初心に戻りました」

(1000円)

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