著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

読夢の湯(よむのゆ)(高円寺)銭湯の脱衣場のような空間に寝っ転がって

公開日: 更新日:

 飲食店やリサイクル店などが軒を連ねる高円寺庚申通り商店街の中ほど。金物店「稲毛屋」の2階だ。表に看板を出さないのがこの商店街のルールとは意外だが、だからこそ、来場者が爆増せず、昨年7月の開店以来、平穏が保たれている、と見た。

 階段を上がってドアを開けると、すてきな下駄箱あり、番台のようなカウンターあり。靴を脱いで、下駄箱の木札を番台で渡して「こんにちは」した先に、31畳の畳敷き空間が広がり、マッサージ機や籐の椅子、ローテーブルなどが置かれている。そう、銭湯の脱衣場さながら。

「僕自身、銭湯好きなので。畳の上に寝っ転がって本を読んでもらっても大丈夫です」

 と、店主の渡邊健治さん(50)。壁面の本棚に、単行本、文庫本、絵本、ジン(自主制作出版物)が全て面陳列で並ぶ本屋さんであり、コワーキングスペースとしても使える場でもある。

ベストセラーとロングセラーがうまい具合に並ぶ選書の妙

 渡邊さんは出版業界に約30年いて「働きすぎた」。40代にうつ病を発症。休職後、完治して復職するも、それまでの担当分野に興味が持てなくなり、「そうだ、本屋、しよう」の思いがふつふつと。周囲から、「こんな時代に? バカ野郎」と言われたが、短期間で事業計画書をまとめて会社を起こし、いわく「サブカルと人情の町」高円寺で物件探しを。退職後わずか半年で、ほかに類を見ないこの店を開いたとはあっぱれだ。

 棚を回って、「さすが出版業界30年」を感じずにはいられない。絵本棚に「大ピンチずかん」と「100万回生きたねこ」、単行本棚に「デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか」と「悩まない人の考え方」というふうに、ベストセラーとロングセラーがうまい具合に並び、選書の妙そのものだったからだ。

「SNSを見て、大分と大阪からわざわざ来てくれた方もいます」とのこと。「店内でスマホをいじっていた人が、ある瞬間から本を手にし、読みふける。そんな姿を見ると、『やった』と思っちゃいますね」とも。

 ジン制作者が自身のジンを並べるシェア棚も活性化しつつある。

◆杉並区高円寺北2-37-8 K's稲毛屋201/JR中央線・総武線高円寺駅から徒歩5分/火・水・木・金曜は13~20時、土・日・祝日は11~20時、火・木・金・土曜20~25時はコワーキングスペース。月曜休み(祝日なら営業)/20時までミニマムチャージ550円(本など購入時に同額が値引きされる)。

うちの推し本

「イクサガミ 人」今村翔吾著

「今村翔吾さんは神保町でのシェア型書店の経営など、本屋の将来につながるエネルギッシュな活動をされている方。だからこそ圧倒的に面白い作品を生み出されるのだと思う。本書は“明治時代×バトルロワイヤル”の第3弾。誰がやられ、誰が生き残るのか? 『るろうに剣心』が好きな人も病みつきになるはず。Netflixでも岡田准一主演でドラマ化が決定しています」

(講談社文庫 1067円)

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