黒田福美が語る伊丹十三監督 伝説の“生卵口移し”秘話も
■2作目の監督作「タンポポ」に「出るかい?」
当時27歳。約5年女優を続けていましたが、端役ばかりで食べるのが精いっぱい。先が見えず、引退して別の道を歩んだ方がいいのかと悩んでいた時期でした。そして、収録が進み、明日の撮影で私の出番が終わるという日に、初めてお会いした時に感じたままを手紙にしたため、意を決して伊丹さんの楽屋に届けたのです。次の仕事に結び付けようとか、コネづくりのためではなく純粋に「感激したことを伝えたい」という一心で。
というのも、伊丹さんとは役者としては、天と地ほどの格の違いがありましたから話しかけるなんてもっての外。かといって何も伝えないまま現場を離れたら一方通行の共演になってしまう。「それでいいのか」と思ったんですね。
楽屋のドアを叩くと伊丹さんがおられて緊張のあまり、挨拶もそこそこに上がり框に手紙を置いて逃げるように自分の控室に戻りました。すると翌日、「(手紙を)見たよ。今度、映画撮るんだけど、君も出るかい?」と声をかけてくださったのです。下心があったわけではなかっただけに、思わぬ展開にビックリしました。