契機は1枚のチラシ 重田千穂子が語る熊倉一雄さんへの恩

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 2年間勉強、養成所の卒業公演で、演出の熊さんが「カチカチ山」の主役のウサギに抜擢してくれました。太宰治の「お伽草子」をもとにした作品で、ウサギはタヌキを翻弄する自由奔放で残酷な16歳の少女。それまではおばあさんとか大人の女性しかやったことがないので、熊さんが少女の役をくれたのにびっくりしました。でも、生意気盛りで、熊さんと役づくりの意見が衝突するとどっちも譲らない。しまいに熊さんが「重田、それでいい!」と折れてくれた。今思えば熊さん相手に突っ張るなんて怖いもの知らずですよね(笑い)。

 入団後、私が外部公演に出演すると必ず見に来てくれました。そしていつも熊のシールを貼ったかわいらしい封筒でご祝儀袋をくださるんです。下北沢の小劇場で、エコーの芝居とは正反対の品のないナンセンスな芝居に出た時もわざわざ見に来てくれて、終わった後に冷や冷やしていたら、「よかったよ」と言ってくださって……。

■劇団に“出戻り”を相談も「そうしなさい」

 それなのに35歳の時に劇団を辞めちゃった。テレビの仕事が一段落した頃で劇団にいても役がつかないし、もっと違う芝居もしたくなって熊さんに打ち明けたら、残念そうに「そうか、今度の芝居で『青茶婆』をやってもらおうと思っていたのに……」と。青茶婆は井上ひさしさんの名作「表裏源内蛙合戦」の主役級の役。「えー、それなら辞めると言わなきゃよかった」と思ったけど、後の祭り(笑い)。

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