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一雫ライオン作家

1973年、東京都生まれ。明治大学政治経済学部2部中退。俳優活動を経て、35歳のときに演劇ユニット「東京深夜舞台」結成を機に脚本家に転身。主な脚本作品に、映画「TAP 完全なる飼育」「サブイボマスク」、東野圭吾原作「パラレルワールド・ラブストーリー」など。2017年に家族愛を描いた「ダー・天使」(集英社)で小説家デビューし、翌年「スノーマン」出版。最新作は幻冬舎から出版予定。

決定権ある方へ みんな地べたに必死に足をつけ生きている

公開日: 更新日:

 今日も今日とて青年からメールが届く。何度でも言うがわたしもそれなりに忙しいし、新作小説の締め切りがおおいに遅れ精神錯乱(いつもだが)、おまけに時々妻に媚も売らねばならぬので、やはりこれなかなか忙しいのである。が、メールを開く。と、「ライオンさんの小説、ようやく読みました」とある。ようやくとは何事、と思いながらも読み進めると、「なぜライオンさんの小説に出てくる登場人物は、人生たいへんそうな人が多いんですか?」との質問が。

 うん、それは人生はやはりたいへんだと思っているからで、青年を仲介したY編集者にきくと彼はなかなか良い家のお子さんらしい。もし必死に働く=たいへんそうな人たち、と思うのなら、そこらへんの感受性は鍛えたほうがいい。

 わたしの友人で長谷川という男がいる。定時制高校で知り合い、30年になる。彼は東京に自分の会社を持ちながら夏の間だけ由比ケ浜で海の家を経営している。もちろん今年のコロナ禍で海の家は中止になった。神奈川県知事が決めたシステムにより、そのような流れとなった。

 中止は仕方がないと思う。手探りに、なおかつ批判覚悟で思い切った舵を取らねば今を守れぬ非常事態だ。だが途中から各都道府県の知事たちが、「我さきに」「我他県ではやっていないことを」の我が我がレースになってしまった。神奈川県知事は焦りもあったのだろう、「コロナファイターズ」と意気揚々と午後2時から始まるワイドショーの時間帯に合わせ記者会見をし、みごとだだ滑りした。名誉挽回の焦りが伝染していったのか、海の家の中止はずいぶんと早くに決まった。

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