木村拓哉主演「マスカレード・ナイト」好調の波に乗って…「教場」の映画化を待望する
木村拓哉(48)主演の「マスカレード・ナイト」が公開初日から12日目で、早くも興収20億円を超えた。現時点では、今年公開された邦画の実写作品の興収トップは「東京リベンジャーズ」(推定43億9000万円)。最終的にこの数字に肉薄しそうな勢いである。
これまでの“キムタク映画”は40億円以上が5本ある。公開順に「武士の一分」(41億1000万円=2006年)、「HERO」(81億5000万円=07年)、「HERO」(46億7000万円=15年)、「SPACE BATTLESHIP ヤマト」(41億円=10年)、「マスカレード・ホテル」(46億4000万円=19年)だ。このうち、フジテレビが製作の主体を担ったフジテレビ映画が上位の3本。キムタクと同局は実に相性がいい。
フジテレビは、映画のヒット数がテレビ局の中で群を抜いて多く、ヒットのスケールが大きい。そもそも映画製作のスタート自体が早く、1960年代の後半からだ。歴史的にも映画製作に存分な経験をもち、それに知悉(ちしつ)しているということだろう。ヒット作の系譜をたどることはしないが、その流れにはいくつものラインがある。ジャンルも多様だ。
三谷幸喜氏や是枝裕和氏など監督のバリューにこだわった作品、「ワンピース」などのアニメーションへの製作志向も強い。その中で実写作品の大きな特徴を2つ挙げるとすると、スター主義、シリーズ主義を貫いていることがある。当然、他局もそのような傾向はあるが、フジは徹底している。
■往年のプログラムピクチャーに類似
そこから、あることが浮かぶ。大手映画会社がかつて手掛けた往年のプログラムピクチャー(プログラム=番組を埋めていくローテーション的な娯楽作品)の製作スタイルに近いということである。
往年の映画会社の基軸となるのが、プログラムピクチャーの一画をなすシリーズものだった。所属するスター俳優中心に主演に据え、手を替え品を替え肩の凝らない娯楽作品で観客のニーズに応えていく。観客側はシリーズものを楽しみにし、定期的に映画館に足を運ぶ興行の道筋ができていた。映画会社は、シリーズもの=プログラムピクチャーの安定的な収益確保のもとに、年間の他の番組を決めていく方法がとれる利点もあった。
原点は「踊る大捜査線」
フジテレビ映画の大ヒットシリーズものは、1990年代後半からの「踊る大捜査線」が原点に位置する。そこから「海猿」、「テルマエ・ロマエ」などへ派生し、その流れができた。製作の真骨頂ともいっていい。いずれもスター俳優を起用した作品づくりで、徹底的にエンタメ路線を貫く。エンタメ路線というと範囲は広いが、その際には同社の人気テレビドラマの映画化もあれば、独自企画もあるといった具合だ。
今は昔とは違うので、劇場マーケットに定期的にローテーション番組を埋めていく必要はない。ただ新作が出るごとに前作で獲得した広範囲な観客へ向けての大宣伝もパワーアップされるので、持続的な人気を得ることができる。
フジテレビがまるで往年の映画会社のように見えるのはスター主義を徹底し、続編、シリーズものへの軸足を緩めないからだ。近年では「マスカレード」の2本や「コンフィデンスマンJP」の2本につながっている。そして来年は「コンフィデンスマンJP」の新作、「翔んで埼玉」の続編、ガリレオシリーズの「沈黙のパレード」の公開が控えている。なかなか盤石である。
■世界視野に立った硬派作品にも触手を
ただし、注文もある。フジテレビには興行的な安定路線の先を見据えた製作姿勢をそろそろ見せてほしいということだ。同局得意の気軽に見られるシリーズもの、エンタメ映画はそれとして、より世界視野に立った硬派の作品にも触手を伸ばしてもらえないか。
理由は2つ。ネットフリックスをはじめとして、動画配信サービスが製作を主導する作品のクオリティーや話題性がぐんぐん上がっていること。国内向けの収益構造だけではなく、海外も含めたより大きな市場のもとで、邦画は勝負すべきときに来ていることだ。
■「教場」の映画化は?
キムタクに話を戻せば、同局では少し異色ともいえる「教場」の映画化を待望する。テレビドラマを見た限りでは、全く新しいキムタク映画の誕生が期待できる。原作やテレビドラマとの兼ね合いが難しいかもしれないが、そこは企画の練り方次第だろう。
中身いかんでは、市場性も含めて世界視野で戦えるのではないか。「教場」をきっかけに、より幅広いジャンルに向けて、一つ一つ手を付けていってもらいたい。その余裕が、今のフジテレビにはあると見ている。