「裸のムラ」五百旗頭監督があぶり出す“家父長制”というこの国の宿痾
今年3月、地元出身の元文科大臣・馳浩が新知事に就任して話題になった石川県は、保守王国とも自民王国とも呼ばれる。馳が選対本部長を務めたこともある前任の谷本正憲は、7期28年にわたり知事を務めた。その谷本が副知事として仕えた中西陽一にいたっては、死去したとき8期31年目の知事在職中だった。なんと昭和38年からつい今春までのおよそ60年間、石川県知事室の椅子に座ったのはこの2人だけ。超・長期政権がくり返されてきたのである。
石川の保守王国ぶりは筋金入りだ。百万石の一番大名として知られる加賀藩が長く続いたことが、現在の保守的かつ安定的な風土につながっているという俗説には、あらがいがたい説得力がある。長期間の権力集中が弊害を生み出すことは、誰もが想像できそうなものだが、実際その磁場に身を置けば、「安定」のメリットがまぶしすぎてデメリットはなかなか見えづらくなるものらしい。
「裸のムラ」は、谷本前知事や石川出身の森喜朗元首相の滑稽寸前な独善的言動の数々を採集、展示し、その背後にカビ臭い家父長制があることをあぶり出す。さらにカメラは市井にも向けられ、日本人夫とインドネシア人妻のムスリム一家、バンライファーと呼ばれる車中生活者の日常も映しだす。女を支配したがる男、年少者に服従を強いたがる年長者。見ていて息苦しさを覚え、「大人の男ですみません」とつぶやきたくなるのは、ぼくだけではないはずだ。