「PLAN75」早川千絵監督の才能を激賞 そして「倍賞千恵子を見るための映画」と断言できる
狂騒的コメディーとしても成立しそうなテーマ設定だが、ディストピアのひと言で安易にカテゴライズされるのを拒むような繊細な演出は、早川監督の非凡さを物語る。「これってあり得るかも」と感じさせるリアリティーを随所に配することに余念がない。昨今の日本映画にはびこる「すべて語りつくすセリフ」や「誤読の余地ない演技」とはまったく無縁。説明を極力排除することで表現としての豊かさを獲得したとも言える。全編で通奏されるのは観客への強い信頼に他ならない。
そして倍賞千恵子のすばらしさ! この一本であらゆる主演女優賞を総ナメにしても、ぼくはつゆほども驚かないだろう。監督の才能を激賞することと「この映画は倍賞千恵子を見るためにある」と断言することが同義になるのが、「PLAN75」最大の達成か。
倍賞演じる身寄りのない78歳の勤勉なホテル清掃員ミチは、凜としたたたずまい、うつくしい言葉遣い、つつましい所作で「旧き佳き日本」を体現する。そんなミチが奮闘むなしくプラン75を選択するにいたる、世のままならなさ。観客はそれをお安い同情や憐憫からではなく、いつの間にか生まれていたミチへの共感から理解する。まず演技があるのではない。そこには人間がいる。