森山直太朗×内田也哉子 NHK「オチビサン」主題歌制作秘話【特別対談/前編】
作品の普遍性と女性性
──「オチビサン」を見てどう思いましたか?
内田 私自身は幼い頃から欧米文化の環境で育っているので、作品から改めて日本の四季折々の風習を知ったり、細部から新鮮な驚きをもらえましたね。主人公が遊ぶ小さな野原に自分の子育てを重ねて、外遊びが好きだった我が子たちと寒くても暑くても公園に行っていた時を思い出したり、たわいもない瞬間がどんなにかけがえのないものか気づかせてくれたり、今や子供たちも大人になっちゃったので、ちょっと切ない親離れと私も子離れしなきゃいけない時期で“人生の季節の変わり目”を改めて感じさせてくれました。本当にオチビサンって子供から大人まで感じ入る作品ですよね。
森山 モヨコさんのとっても個人的な心の機微を垣間見させてもらう作品でした。自意識ではとらえられないふとした瞬間にホッとしたりキュンとなったり。自分の曲に「どこもかしこも駐車場」っていう曲があるんですけど、ただ終始「どこもかしこも駐車場だね」って繰り返すだけの曲なんです。是でも非でもない、ただある景色を切り取って、受け手それぞれの思いに語りかけてくるような作りが、言葉や絵を超えた切なさやはかなさを増幅している。
内田 あぁ、あの曲大好き。あの切なさはどこから来るんでしょう?
森山 ゲシュタルト崩壊じゃないかな。ただある景色を切り取って繰り返すことで感情が込み上げるような。それをアニメで表現しているところがモヨコさんのすごいところ。モヨコさんの持ってる静寂から繰り出される普遍性と景色の切り取り方はせんえつながら自分と似ていると感じていました。エンタメとしてはわかりやすいものでもないんだけど、ただ立ち止まって、受け取ったそれぞれが思いを張り巡らされるところに共通項とほっこり感を感じるんですよね。
内田 分析がすごい!
森山 也哉子さんもどんなに大舞台でもトーンが変わらない、その“ブレない強さ”がモヨコさんの持ってる作品の普遍性とすごくリンクしている。あと女性性ですよね。僕も自分の中の女性性というフィルターを通して表現することはあるんですけど、2人のリンクは僕とは違う。逆に也哉子さんの少年っぽさも歌詞の中にあって、終始キュンとしてました。
内田 あら、告白!? うれしい(笑)。私は恐縮しっぱなしだったけど。=後編につづく
(構成=岩渕景子/日刊ゲンダイ)