マギー司郎さん「手品での一番の失敗はギロチンかな。お客さんの手が引っかかってね…」
「コカ・コーラがペプシに変わります」って苦し紛れに
だいたい僕の芸はいつも苦し紛れなんです。追い詰められて必死に考えるの。
例えばコップにコカ・コーラを入れますってヤツ。コーラを入れたらコップにハンカチをかけて3回回す。それからスッとハンカチを取る。「ペプシコーラに変わりました。わかります?」って。
それの応用でやったのがごはん。お茶碗にごはんを入れる。「これ、ササニシキです」って言って、3回回してから、「コシヒカリに変わりました、わかります?」ってやる。それから塩が砂糖に変わるとかね。
それから白いハンカチが違う色のハンカチに変わるというヤツ。♪チャラララララ~、「お客さんの好きな色を何でも言ってください」って言って「ピンク」って言われたら、「ピンク、休みなんですよ」。「ピンク以外なら何でも」「じゃあグリーン」「グリーンは午前中で終わっちゃったんですよ」という具合に延々やる(笑)。全部苦し紛れです。
僕はずっとダメな生活が多かったんですよ。9人きょうだいの7番目で生まれました。子供の頃から裕福とか安定ということがない。ダメなことが普通だと、何が起きてもビックリしないということはありますよね。
茨城(下館)の中学校を出て、手に職をつけないといけないから、建具の職業訓練学校に入りました。職人さんの世界は怖かったんですね。半年でやめ、憧れていた東京に蒸気機関車に乗って4、5時間かけて家出してきました。
まずは職探し。最初にバーで雇ってもらい、はやっていたキャバレーハリウッドの面接に行って潜り込みました。そこでバーテンダーをやりながらスクールに入って、マジックを習いました。
最初の部屋は池袋の3畳1間です。半年、1年やっていると、いろんな道具を買うから布団を敷くところがないくらい狭くなりましたね。でもバーテンダーをやめて、マジックで生活ができたらいいなと思ってました。
仕事はそういうのをやっているプロダクションを電話帳で探して自分から売り込みました。浅草の軽演劇「デン助劇団」の関係者がやっているプロダクションでした。そこから電報が来て。京浜急行の生麦ミュージック劇場に行ってくれと言われ、ライブハウスかと思ったらストリップ劇場でした。そこで1日4回マジックをやったのが僕のスタートです。15分くらいのところ、5分くらいで終わっちゃうからよく叱られました。
それからはそこの系列のストリップ劇場や全国のストリップ劇場を回りました。1日4回だから月に120回、200カ月なら2万回くらいになります。
今は弟子もたくさんいて、マジックの第一人者みたいにいわれることもあるけど、いまだに自信ないですね。ストリップ劇場で怒られることも多かったから、「すいません、すぐ終わります」というのが口癖でいつも謝ってばかりいた。だからテレビに出た時も「すいません」と出ていく。元々ダメな性格だし、それが癖になっているんでしょうね。
苦し紛れでやっているから、失敗は慣れっこ。しょうがないじゃないですか。
■2度離婚、最初は彼女ができて「3人で住もう」って持ちかけた
人との出会いでは3人ですね。
1人はマジック専門店「マジックランド」創設者の小野坂東(トン)さん。僕の師匠(マギー信沢)の弟子になりたかったらしいけど、手品の研究家になって、僕に合うネタを作ってくれた。
それからMr.マリックさん。同じスクールで勉強しました。マリックさんは僕とは性格が全然違って、キチッとやる人だから、一緒にやる時のキャッチフレーズは「緊張と緩和」。マリックさんのマジックは何が起きるかと緊張して見る。肩が張るくらい。僕はたいしたことをやんないから、ホッとする。それがウケる。
今は夏木ゆたかさんですね。夏木さんがパーソナリティーの「えんか侍」(ラジオ日本)に準レギュラーで出ています。夏木さん、早口でしょ。でも、あの話術が勉強になるんですよね。いろんなところに連れ回してくれるのもありがたいです。
女性とは2度出会いがあって結婚したけど、2回離婚しました。2回ともよく覚えてますよ。最初の時は彼女ができちゃったんですよ。それで話し合いになって、出した結論は「3人で一緒に住みましょう」(笑)。だって、男の本音は好きな人なら3人でも4人でも、いいでしょ。今なら許されないことかもしれないけど。あっ、その時もやっぱりダメでしたね(笑)。
2度目の時は青砥の公団住宅に住みました。僕は相手が嫌だなあと思うと家に帰らなくなるんですよ。だって、一緒にいてもしょうがないじゃない。で、3年帰らなかったの。そうしたら「もう帰ってこなくていいです」って。芸人は不安定だけど、女の人は結構たくましくて、別れてもスナックとかで自分が食べる分くらいは稼ぐでしょ。そのまま何もなく別れました。
それから何十年も一人です。多分、誰かと一緒になっても、また嫌になったら、家出しちゃうでしょうからね。
(聞き手=峯田淳)