専門医が解説 がん細胞だけを攻撃する最新放射線治療とは
「しかも、がん細胞の内部で生じる重粒子が飛ぶ距離はわずか10マイクロメートルほど。これは細胞1個分に過ぎません。つまり、この治療法はがん細胞に隣接する正常細胞に影響が出る恐れの低い治療法なのです」
その効果は、すでに国内で数百例行われた臨床研究で実証済み。従来の治療法では治癒が困難だった悪性脳腫瘍や悪性黒色腫などが、数十分の照射1回で消えたケースがいくつも報告されているという。
ただし、中性子線は体の中に入ると、体内の水素原子などに当たりながらエネルギーを失い、体の表面から9センチほどで3分の1以下になる。それ以下になると治療に必要な線量を得られないため、現在の適用は、悪性脳腫瘍や頭頚部がん、悪性黒色腫、舌がん、口腔がん、耳下腺がんなど、体表に近いがんに限られている。
実はこの治療法の研究は昭和40年代から京大を中心に進められてきた。なぜいままで普及しなかったのか?
「がん細胞に照射する中性子を作り出すには、当初は原子炉が必要だったためです。その設備を持つ研究機関の数が限られていて、臨床数が十分ではなく、どんながん患者さんに効果があるのか、その適応がハッキリしなかったのです。ところが最近、医療用の加速器が開発されました。今後は私どもを含めてより多くの施設で臨床データを蓄積し、実用化するにあたってのルール作りを行うことになります。また、現在、使われているホウ素化合物にはアミノ酸が使用されており、正常細胞にも微量ながら蓄積される。今後はこれも改善されるでしょう」