放置でうつ症状も…老人の貧血には怖い病気が隠れている
「鉄分には、肉や魚などのタンパク質に含まれ体に吸収されやすい『ヘム鉄』と、野菜や穀類に含まれて吸収されにくい『非ヘム鉄』とがあります。高齢者は『粗食が一番』という誤った考えから、ヘム鉄を取らないため、鉄不足になりやすい傾向にあります」(都内の管理栄養士)
しかも田中さんは、非ヘム鉄の体内吸収を助けるビタミンCも不足気味だった。妻と2人暮らしの田中さんは、果物などを買っても重くて持ち帰るのが大変だったからだ。
高齢者の貧血が怖いのは心臓の病気だけじゃない。胃がんや大腸がんなどの消化器のがんや、うつ症状や食べ物がのみ込めなくなる嚥下障害、認知症やうつ症状などにも注意が必要だ。
「消化管にできたがんによって出血し、鉄欠乏性貧血になることがあります。鉄欠乏性貧血になると、食道の上部3分の1の粘膜に薄い膜(食道ウェブ)ができます。そのため、食事がのどを通らなくなることがあるのです。また、貧血の人は認知症のリスクが上がることが、ドイツや米国などの研究で報告されています」(東丸教授)
鉄分は神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンを合成するのに欠かせない。そのため鉄不足はイライラ感や疲れやすさ、注意力の低下といったうつ病と似た症状を起こすという。
高齢者は貧血を軽く見てはいけないのだ。