すい臓がん<2>「私が手術します。手術適応がないので他ではやらないでしょう」
■肉眼で見える範囲のがんは取り切った
入院から1週間を経た9月初旬、池田さんの病室に高森繁院長(現千葉県市原市「五井病院」院長)が顔を見せ、院長室に誘われた。このとき高森院長はこう言ったという。
「私が手術をしましょう。この診断結果を見ますと、もはや手術適応ではないし、リスクも大きい。一般的な大学病院や有名病院では、手術を行わないところが多いと思いますが、私がやってみます」
院長の気迫がこもった強い決断に、対面して聞いた池田夫妻は目を合わせ、頬がかすかに緩んだと感じたという。
「もしかしたら私は助かるかもしれないと思った瞬間でしたね」
手術日は早かった。院長から「私が執刀する」と告げられた2日後の9月6日、妻と娘さんに見守られて池田さんは手術室に入った。
正式な手術名称は「遠位側膵切除(脾合併切除)腹腔動脈幹、門脈合併切除」である。約5時間に及ぶ手術で、長さ4センチという腫瘍や、腹腔動脈幹なども切除された。